どんな仕事にも当てはまる? 「プロ」と「一流」の条件[本音対談]鈴木亜久里×土屋圭市 | ARTA

2021.9.16

2021.9.16

どんな仕事にも当てはまる? 「プロ」と「一流」の条件[本音対談]鈴木亜久里×土屋圭市

オレの信念は『努力は天才を越える』──土屋圭市

鈴木亜久里:昔、カートとかレースをやったことがなくても、運動神経がいい子たちをオーディションで選んでカートに乗せようとしたけれど、正直に言うとあまり成功しなかった。運動神経と走るセンスは違うんだなと思ったね。土屋圭市だってさ、運動神経がいいようには見えないし(笑)。そのときの教訓として、「あんまりお膳立てをし過ぎてもダメだ」と思ったね。クルマとかメカニックとか良い環境を与えすぎると、何がなんでも! というハングリー精神を奪ってしまうことになりかねない。このスポーツは走るセンスだけでなく、気持ちの部分も大きいのかもしれない。石にしがみついてでもこの世界で生きていこうとか、これが自分の人生を決めるチャンスなんだとか、並大抵じゃない決意とか覚悟が必要なんだよね。

土屋圭市:そう思う。オレの信念は『努力は天才を越える』だから。

鈴木亜久里:ただ、本当の天才って努力もするんだよね。F1のトップに行く子たちは才能があるうえで努力もする。そこが日本の一流と世界の一流の違いだね。セッティングの時間とか、ミーティングの時間とか惜しまないし。オレたちとかさ、6時を過ぎたら呑みに行っちゃったからな(笑)。でも(ミハエル)シューマッハーとかあのレベルのドライバーは、365日、24時間速く走ることばかり考えているし、トレーニングもしているし、一緒にいて『こいつには敵わないな』って思ったもん、オレ。普通天才って努力したがらないけど、才能がありながらさらに努力をしていた。

土屋圭市:たしかにそうだね。天才が努力をしたら敵わない。でもさ、天才って往々にして努力しない人が多いよね。

鈴木亜久里:そう。だから、努力できる天才って超天才なのよ。世界チャンピオンになる人たちは。それってレースの世界に限ったことじゃないと思うけど。

土屋圭市:それは言えるかも。日本の金持ちと世界の金持ちはレベルが違うしね(笑)。

鈴木亜久里:料理の世界とか、芸術の世界でも同じ。たとえばピカソって天才でしょ? でもピカソってすっごい数の絵を描いているのよ。もう描くところがなくなって、雨どいにまで絵を描いちゃったくらいだから。でも、それって彼にとっては努力じゃなくて、好きだからするんだろうな。土屋圭市だってさ、好きだからいまでも走っているわけでしょ。なかなかいないよ、64とか65歳になってドリフトしているオジサンは(笑)。

土屋圭市:好きだとさ、努力が苦じゃないんだよ。最後はそこだと思う。仕事だって、好きだったらどんなに残業しようが、徹夜しようが苦に感じないだろうし。

鈴木亜久里:そうそう。追求することが苦じゃなくて、楽しいんだよね。

ニッサンのエース・松田次生とインディ500勝者・佐藤琢磨の共通点

土屋圭市:いま、SUPER GTを走っているドライバーのなかでは(松田)次生がまさに努力を惜しまないタイプ。あいつ、いまでもそこらじゅうのサーキットを走りまくっているから。他にも才能あるドライバーはいっぱいいたけど、浮かれて遊んじゃったやつらはみんな消えていった。次生が何で消えないかっていうと、とにかく努力をしているから。

鈴木亜久里:へえ、そうなんだ。

土屋圭市:次生の練習のしかたって凄いよ。ミニサーキットでの練習にしたって、ガソリンを満タンに入れたときは八分山のタイヤで走り、少なく入れたときはあえてツルツルに減ったタイヤで走ったりとか、いろいろ考えながらやっている。あと、ドリフトも練習しているしね。だから、あの歳になってもSUPER GTでニッサンのエースをやっていられるんだよ。

鈴木亜久里:次生も好きだから努力できるんだろうな。才能がすごくあって日本のトップには立ったけれど、努力をしなかったばかりに世界に行けなかったドライバーも何人かいる。ヤツらは遊んじゃったからなあ。

土屋圭市:ゴルフばっかりやっていたりとかね。あと他のことも(笑)。自分の才能におごりを持っちゃったんだろうな。石にしがみついてでもっていう気持ちがなかった。

鈴木亜久里:その点、(佐藤)琢磨なんて昔から自分で資金を集めたり、自分で海外に行ったりとか、すごく努力をしていた。それがインディ500の優勝につながったと思うし、いまでも現役で乗れている理由だと思うよ。琢磨の場合は才能以上に努力をしたことが大きいと思う。何が何でもやるという信念がすごかったし、本当に努力家だよね。

土屋圭市:ウチ(ARTA)に来る子たちも、みんな天才の領域に入っていると思う。でも、そこから先はもう本人次第だよね。鈴木亜久里はさ、セットはしてあげるよ。でも、あとは自分でやれよって。

鈴木亜久里:野尻(智紀)にしても、福住(仁嶺)にしても、(佐藤)蓮にしても、みんな天才だよ。小さいときにカートに乗っているのを見ればそんなの分かるし、本当に超一流。ただ、いま彼らがどんな生活をしているのかは見えない(笑)。もうみんなお金をもらって走るプロなわけだから、自分自身で管理していかないと。

土屋圭市:ウチの若い子たちって20代の前半だけど、ここから先、次生みたいになれるかどうかは考え方次第だね。天才って基本的にはクビにならないから、あまり深く考えないし、だから遊ぶんだよ。でも、そうやっているうちに気がつけば崖っぷちに追いやられている。

鈴木亜久里:そうそう、いきなり道がなくなる(笑)。まだいくらでも稼げると思っていたら、突然乗れなくなるから。オレも若い頃モナコに住んでいたとき(片山)右京に言われたもん。『亜久里さん、船を買ったりとか、そんなにお金を使っちゃって、歳を取ったらどうするんですか? アリとキリギリスの話知ってます? 将来困りますよ』って(笑)。だから言ったのよ。それは日本版のアリとキリギリスだろって。モナコのキリギリスはさ、冬のあいだにアリがコツコツ貯めたやつを食べるんだよって(笑)。まあ、それは冗談だけど。

運、ツキ、流れ。そして「攻めるときは攻める」

土屋圭市:あと、レーシングドライバーの場合は実力だけじゃなく、運や巡り合わせも重要だよね。

鈴木亜久里:あるある。オレがF1に行けたのだってバブルのおかげだもん(笑)。ちょうど一番いいときにバブルが来た。

土屋圭市:でも、それも鈴木亜久里の運命だから。オレたちがいつも言っているのは運とツキと流れ。勝負師はその3つが噛み合わないとダメなんだよね。

鈴木亜久里:すごく上手いサーファーだって、波が来なけりゃ、ただ板に乗っかって波を待っているだけだからね。

土屋圭市:波が来るまで待っているようじゃダメ。やっぱり攻めないと。もうアンテナをバンバン立てて。

鈴木亜久里:たしかに、ただ口を開けて待ってちゃダメだよね。ある程度自分で投資をして、攻めるべきタイミングでは攻めないと。オレだってF1を止めたとき、スポンサーとか何もなかったけれど、若い子を走らせたいと思ってフォーミュラニッポンのチームを作った。そうしたら船井電機さんがスポンサーについてくれて、その取引先ということでオートバックスさんを紹介してくれたんだから。それがいまにつながっているわけだからね。あのとき36歳だったけど、フォーミュラニッポンのチームを作ろうとしなかったら、いまみたいなことにはなっていないと思うよ。きっと、オレ自身レース界にいなかったと思うし。

土屋圭市:とんでもなく速かったのに、売り込みが下手で超一流になれなかったドライバーも少なくないからね。

鈴木亜久里:そういう意味ではさ、このARTAっていい環境をつくり過ぎてしまう部分もあって、そうするとハングリーにならなくなる危険性もある。それはARTAだけじゃなくて、自動車メーカーの育成プログラムも同じ。若い子は常に次のステップに進むことを考えないと。たとえば、本当にF1に乗りたかったら日本にいちゃダメだし、自分でシートを探していかないと。ノブ(松下信治)みたいに、海外に行くチャンスがあったらどんどん行くべきだと思うね。

土屋圭市:そのとおり。若いんだったら日本でくすぶってちゃダメ。国内でレースをやるにしても、たとえばARTAが年棒を1000万円とか払うとしたら、他のチームに2000万円で引き抜かれるようなドライバーにならなきゃダメだよと言いたいね。

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