[本音対談]鈴木亜久里×土屋圭市 内側から見たホンダ、トヨタ、ニッサンの“芸風” | ARTA

2021.5.27

2021.5.27

[本音対談]鈴木亜久里×土屋圭市 内側から見たホンダ、トヨタ、ニッサンの“芸風”

ピーク値の高さが自慢のNSX、安心・安定のGRスープラ

2021年のSUPER GTは「クラス1+α」規定にもとづいて開発されたGT500車両にとって、2年目のシーズンとなる。全車がFR(フロントエンジン・リヤドライブ)の共通シャシーと、同じ規定で開発された2ℓ直列4気筒直噴ターボ・エンジンを採用。それでもクルマごとのキャラクターの違いは明確で、それが大きな魅力にもなっている。ARTAの鈴木亜久里総監督、そして土屋圭市エグゼクティブ・アドバイザーは、現在のクラス1+α規定のGT500車両を、そしてライバル陣営(トヨタ、ニッサン)をどのように見ているのだろうか?

鈴木:みんなが同じ規則のクルマでレースをできるっていうのは、とてもいいことだと思うんだ。そのうえで、共通部品を使っていても、メーカーごとの個性はすごく出ているし、そこが面白い部分だね。

土屋:全車FRで2ℓターボという同じ規則のクルマで、ガチで戦っているわけだからめちゃくちゃ面白いよね。だからこそ絶対に負けたくない。こうなると、もう各メーカー(ホンダ、トヨタ、ニッサン)、各タイヤメーカー(ブリヂストン、ミシュラン、ヨコハマ、ダンロップ)、各チームのエンジニアとドライバーの勝負だよね。

鈴木:NSX-GTは昨年ミッドシップからFRに変わったけど、じつは重量配分は大きく変わらなかったし、ドライバーに聞くと「前後どっちにエンジンが載っていても、クルマのフィーリングは同じです」っていうんだ。NSX-GTってほんといいクルマだと思うけど、強いところとそうでないところの差が出やすいのも事実。セッティングが決まるとレールの上を走っているようにビシッと驚くような速さを示すけど、ちょっと外れるとコントロールが難しくなる傾向がある。

土屋:ピーク値の性能は間違いなく高い。ピンポイントかもしれないけど、その“尖ったところ”が速いのは、ある意味ホンダの伝統だよね。ミッドシップ時代のNSXもそうだったし、その前のFRだったHSV-010のときから基本的にクルマのキャラクターは大きく変わっていない。

鈴木:それと比べると、トヨタ勢はいつの時代も安定して強いね。昨年、ホンダはレイブリックNSX-GTがチャンピオンを獲ったけれど、1シーズン全体の流れを見るとGRスープラ勢のほうが安定していた。同じものを使っているのに、クルマ作りの考え方が違うんだろうね。エンジンのピークパワーも空力のダウンフォースも、個人的にはNSX-GTのほうが絶対に出ていると思うんだ。でも、SUPER GTが難しいのは、GT300が出てきたりして、必ずしも自分が好きなラインを通れなくなること。だから、ピークのスピードが少し落ちたとしても、ある程度コントロールの幅が広いクルマのほうが強かったりする。

土屋:トヨタはどこのサーキットに行っても、サクセスウエイトを積んでも速いね。きっと、テストのやり方が他メーカーとは違うんじゃないかな。ホンダやニッサンがやっていることの倍以上の内容をテストメニューとして試しているように思えるくらい。そうでなかったら、ウエイトを積んであんなに速いクルマにはならないから。

鈴木:NSX-GTって空気の力(ダウンフォース)で走っているんだよね。もちろんどのクルマもそうだけれど、とくにNSX-GTはその傾向が強いように思う。GRスープラのほうが、空力以外のメカニカルグリップの領域も重視しているから、重くなっても、どんな路面状況になっても、対応できる幅が大きいように見えるね。

大企業の社長がサーキットに来て、一緒に戦う緊張感

ホンダ陣営は伝統的に空力を駆使し、絶対的なスピードを重視するクルマづくりの傾向が強い。その要因は、トップフォーミュラであるF1を経験したエンジニアが多いためなのだろうか? 現在は共通パーツが多く使われている規則だが、それでもクルマづくりのフィロソフィーがメーカーごとに異なり、その結果として出来上がったクルマのキャラクターも変わる点はとても興味深い。さらに、両氏に言わせれば、クルマだけでなく「チームの雰囲気」もホンダとトヨタでは異なるという。

鈴木:ホンダ系のチームってファミリー的な雰囲気が強くて、ライバルではあっても、みんなで情報を共有しながらお互い良くなっていこうという感じがある。それに対してトヨタ系のチームは、僕の目から見るとそれぞれインディペンデントで、ライバル指向が強いように思うな。今年から豊田章男社長がオーナーを務めるチームも加わったから、さらに面白くなるかもしれない。僕らホンダ勢としては、トヨタ陣営内でチーム間の足並みが乱れてくれたら、そこに反撃の余地が生まれるかもしれないと思っている(笑)。

土屋:それにしても、トヨタのような大企業の社長がサーキットに来て、毎回のように陣頭に立って旗を振っているのは、本当にすごいことだよね。

鈴木:それはウチのチームも同じでしょ。オートバックス(セブン)の小林(喜夫巳)社長が毎回来ているから本当にやりにくい(笑)。でも、だからこそエンジニアもドライバーもプレッシャーを感じるし、やっぱり士気が違ってくる。

土屋:ピリッとするよねぇ。小林社長がただ来て挨拶をして帰るだけなら、緊張感はそれほどではないかもしれないけど、そうじゃないから。一緒に戦ってくれている。だから、みんなの気持ちが引き締まる。

鈴木:開幕戦の岡山なんて、社長が来るっていうのに予選終わったらビリで、僕なんてもう消えたくなった(笑)。でも、それくらい真剣にレースを見てくれているし、トヨタもそうだけど、社長が来て旗を振ってくれるのは、レース業界全体にとってすごくいいことだし、素直にうれしいよね。

現在はポイントランキングでホンダとトヨタが上位につけ、かつての王者であるニッサンは苦しい戦いが続いている。しかし、レースはライバルが強ければ強いほど、面白さと魅力を増すものだ。それゆえ、鈴木亜久里と土屋圭市はニッサン勢の復活にも期待を寄せる。

鈴木:クラス1+α規定になってからのGT-Rは、ちょっと厳しいね。(ニスモの2台が履く)ミシュランが他とは違うし、それが強みだった時代もあったけれど、いまはその強い部分を出しきれていないような感じがするな。この時代にヨーロッパからタイヤを持ってきて戦うのって、やっぱりすごく大変なことだと思うし。

土屋:ニッサンについてだけど、個人的には疑問がある。普通、調子が良くないときってメーカーごとにある程度順位が固まる傾向にある。いま、調子の良くないニッサン陣営の4台が下位にまとまっているなら納得できるのだけど、GT-Rはバラけるのが不思議だね。もちろん、タイヤメーカーの違い(ニッサン陣営はミシュラン2台、ブリヂストン1台、ヨコハマ1台)によるものと言われればそれまでだけど、個人的な本音としては解せない印象がある。とにかく、GT-Rで戦うチームと選手は、いまはかなりつらいと思うけど、NSXだって冷や飯を食っていた時代もあったわけだし、何とか頑張ってほしいな。

まだリザルトにこそ表れていないものの、ホンダとトヨタの開発陣は、ともに「今季のGT-Rはエンジンの性能が上げてきた」と明言し、警戒感を強めている。

GT500を戦う3メーカーの“芸風”を意識しつつ、シーズン中盤戦以降のレースを眺めると、いままでとは違ったSUPER GTの魅力に触れられそうだ。

Related Products

関連商品

シェア:

Related Article

関連記事