GT500の“FR NSX”は「未知のコース」でどれほど戦えるか?
2021年シーズンもARTAは、引き続きSUPER GTのGT500とGT300の両クラスにNSXで挑む。参戦体制に大きな変化はないが、チームは両クラスでのタイトル獲得に照準を合わせ、オフのあいだに粛々と準備を進めてきた。そこで、鈴木亜久里総監督と土屋圭市エグゼクティブ・アドバイザーのふたりに、まずは今シーズンにかける思いと展望について聞いた。
鈴木:昨シーズンは全メーカーが同じ規定でクルマを作り、NSX-GTはミッドシップからFRへと大転換したけれど、FR初年度だったことを考えれば僕らのARTA NSX-GTは戦えるクルマになっていったと思う。今シーズンはクルマこそ変わらないけれど、昨年走らなかったサーキットでもレースが行なわれるから(すでに終了している開幕戦の岡山国際サーキットに加え、第5戦はスポーツランドSUGO、第6戦はオートポリスで開催予定)、そこでライバルに対してどれくらい戦えるか。マシンの力関係がどうなるのか興味深いね。
土屋:GT300もクルマはNSX GT3で去年と変わっていない。同じGT300のなかでも、僕たちのFIA GT3車両は、重量や改造範囲の面でJAF-GT車両に対して不利な面があるのは正直否めない。でも、そのような状況で、いかに戦うかがポイント。我々ARTAとしては、毎年のことではあるけれど、軽いクルマがウエイトを積んできてからが勝負だと思っているし、そのときにタイトルを争える位置につけていたいね。
鈴木:とにかく、GT500もGT300も、取りこぼしをしちゃダメだよね。苦しいときでも、1点でも2点でも拾っていくようなレースをするのが今年の目標。「チャンピオン争いをする」ということは、つまり「リタイアをしない」ということだから。ドライバーにはとにかく「ぶつけるな」「止まるな」「ノーポイントだけはダメだ」と口が酸っぱくなるくらい言っている。
GT300に3年連続でやってきた“天然、天才系ドライバー”
ドライバーに関しては、GT500は昨年と変わらず野尻智紀と福住仁嶺が今シーズンもコンビを継続。一方、GT300についてはベテランの高木真一は変わらないものの、昨年パートナーを務めた大湯都史樹が他チームのGT500クラスに抜擢されたことにより、若手有望株の佐藤蓮が新たに加入している。
鈴木:GT500はドライバーのふたりとエンジニアもライアン(ディングル)のままだから、基本的には昨年と同じ体制。野尻(智紀)はクルマの作り方がうまくなってきていると思うし、細かいから納得がいくまで何時間でもミーティングをするんだよね。その野尻を見て福住は勉強をしているし、いい流れなんじゃないかな。野尻がいいクルマを作れば、基本的にはどんなクルマでも乗れちゃう福住(仁嶺)が、さらに速く走れるようになるし。
土屋:GT300は、昨年の大湯も速かったけれど、蓮もまたいいドライバーで「鈴木亜久里、今年もいいチョイスをしてくれたなあ」と思った。大湯と同じく、蓮も天才肌のドライバーだね。700kgのクルマを空力で曲げていたフォーミュラのドライバーが、1300kgのクルマを荷重移動で曲げなくてはならないのに、それにすぐ適応できている。素直に「すごいなぁ」と思うよ。
鈴木:GT300は2019年の福住、2020年の大湯、そして今年の佐藤と3年連続で若い子が入ってきたことになる。毎年新しいドライバーを使うのはリスクもあるけれど、若い選手を育てることが、そもそも僕らARTAとしての活動の原点だからね。それに、いまの若い子たちは経験の少なさなんて全然関係ない。イケイケだし、グズグズ文句も言わないから(笑)見ていて気持ちがいいんだよ。そして、ベテランの(高木)真一もすごくうまく全体をコントロールしてくれている。真一がちゃんとクルマを作って、若い子たちが乗れる時間を多く確保しようと考えてくれているんだ。本当にいいチームだと思うよ。
土屋:自分の立場から言わせてもらうと「3年続けて天然、天才系の若いドライバーがやってきた」感じ。彼らに共通しているのは、驚くほど落ち着いているということ。たとえば、レース中にバトルしているときでも、みんなあまりにも冷静で可愛げがない(苦笑)。普通のドライバーなら焦ったり、取り乱しても不思議ではないような状況でも、とにかく落ち着いている。思わず「もっとテンパれよ」とか言いたくなるくらい(笑)。よくよく考えれば、ここ3年くらいレース中の無線で「落ち着け、落ち着け」とか1回も言った記憶がない。
鈴木:あの子たちは、みんなF1に行きたくて頑張っていたドライバーだから、日本国内で走らせると、やはり実力が抜きん出ているよね。
開幕戦の岡山、ARTA NSX-GTは予選で下位に沈むも、決勝では順位を挽回し7位でフィニッシュ。一方、ARTA NSX GT3は高木からバトンを受け継いだ佐藤がポイント圏内のクラス8位を走行していたが、67周目にライバルと接触し残念ながら26位に終わった。
どちらも望んでいたリザルトではなかったが、チームは気持ちを切り替え第2戦富士に臨む。昨年、ARTA NSX-GTは富士の予選で4戦中3戦でフロントロウを獲得。ARTA NSX GT3は4戦で2回表彰台に立つなど、サーキットとチームの相性は悪くない。
鈴木:去年、GT500は一発の速さはあったけれど、レースでは弱さが出てしまったのが反省点。だから、シーズンオフのあいだはその部分を重点的にやり、レースで速く走れるクルマを作ろうと冬場にいっぱいロングランをやった。長い距離を走ったときに、落ち込んでいかないクルマを作ろうと。そのあたりが次の富士でどう結果となって表れるのかが楽しみだね。
土屋:僕らのGT300は、なぜか分からないけど昔から富士はいいんだよな。まあ、ターボ車は標高が高いサーキットで有利というのもあるけど。あと、NSX GT3は空力性能がいいからストレートエンドでスピードが伸びるのは有利だね。ブレーキング勝負に持ち込めることができる。いずれにせよ、僕らがやらなければならないのは、いいレースをしてお客さんに楽しんでもらうこと。次のゴールデンウイークの富士大会はもちろん、年間を通じてにファンのみんなに「楽しいレースだったな」と思って帰ってもらえるようにしたいね。
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