開幕戦岡山では、8号車が3位表彰台を獲得し、次のステージ富士へと挑んだ。その第2戦の戦う準備に忙しい設営日に、土屋圭市エグゼクティブ・アドバイザー(以下、土屋)に今季のARTAの体制について、鈴木亜久里総監督(以下、鈴木)のインタビューからさらに切り込むべく語っていただいた。
伝えきれるのだろうかと思うほど、22年間に及ぶ鈴木と土屋との強固な信頼関係を垣間見ることとなった。また土屋とキャラクターの違う鈴木の女房役、この言葉を遣ったら土屋は少し困惑していたようだが、きっと自然とその役を誰に言われることなくこなして来たのだろう。そんな土屋のサポートにも感銘を受けた。2人のバランス、それは至るところにあるARTAのオレンジと黒のバランスのように絶妙である。
それでは、インタビューをどうぞ。
―まずは開幕戦を終えての感想を
土屋:開幕戦は、荒れた天候となったけれど、FCYや「運」と「流れ」だけで、GT300クラスの後ろからスタートして、3位表彰台になんてフツーに考えて乗れるわけがないよね。そんな開幕戦だったからそれを終えて、次の富士はドライだったらと思うともう期待しかないんだよ。ARTAに23年間いるけれど、思えばこんなにイキイキできるシーズンは無かったかもしれない。過去には、鈴木には申し訳ないけれど、なぜにこんな体制で戦うんだろうと思うこともあった。しかし、そこは亜久里(鈴木総監督)が諫めてくれ一緒に頑張って来た。今、自分でも空回りしているかもしれないと思うほど、今季はそれだけワクワクするシーズンだと思ってる。
―この体制について
土屋:これまでの22年間、ARTAと共に戦う周囲の環境との兼ね合いから、ドライバー事情は自由ではなかったです。これは致し方ないことなのに、昨年の夏、ドライバー4人揃えたい!と亜久里から相談されたんです。開口一番、そんなことできる訳ない!と答えました。どう考えても無理。しかし、そこを亜久里が頑張り、ARTA始まって以来、亜久里と自分の念願叶ってのこの4人の素晴らしいドライバーを揃えることが出来ました。
メンテナンスガレージもいろんな事のタイミングもあって、チーム無限とやることになりました。ドライバーの意向をエンジニアに伝え、100%に近いカタチでやってくれるチームなんか中々ないです。ドライバーの言っていることを全て理解できるエンジニアもなかなか居ない。そんな中でもいろんなメンテナンスガレージと共にやって来て、それを叶えてくれるのはチーム無限ということになりました。ドライバーの野尻(野尻智紀選手)もスーパーフォーミュラで一緒にやっていて、チャンピオンになっている実績を鑑みると、彼が勧めるのも無理はないと判断しました。
―そもそも体制を変えようと思ったきっかけは
土屋 : メインスポンサーであるオートバックス様に対して、危機感を亜久里が抱きました。それは、昨年が史上最悪のシーズンだったことに起因します。ピット作業ミスが2戦連続、電気系トラブルでクルマが止まる…、これも連続でした。人間だから当然ミスはあるんです。しかし、スポンサーに対して人為的ミスはあってはいけません。これはどのチームもそうだと思います。オートバックスは、ミスをしてクルマが止まる?そんな会社なのか?そんなイメージを抱かれてしまう…。スポンサー打ち切りの危機感…。その危惧を抱いた亜久里から食事に誘われ、酒を飲むどころかまずその事から伝えられました。スポンサーフィーの減額ならまだしも、これは打ち切りに値すると…。そう判断した亜久里は、チームを立て直すことを決意し、ひとり頑張ってメーカー、タイヤメーカーなどの説得にあたりました。昨年の夏から新しいチームの実現に向けて本格的に動き始めたんです。それがあって今に至ります。
―ドライバーを土屋の視点で紹介 野尻智紀選手
土屋:彼はこのチームにマストな存在。絶対動かさない。フォーミュラに関してもセッティング能力もあるしね。3年くらい前までは、速いだけのドライバーでした。それももちろん大事ですが、彼には強さがない。速いだけでは消えていってしまう。これではまずい…、他のドライバーを亜久里が探している感じに見て取れたので、野尻を呼んで話しましたね。追いつかれれば抜かれる。追いついても抜かない、優しすぎるんだよと話したんです。翌年から変わったよね。勝負するドライバーになりました。速いだけではないし上手い!この先亜久里は5年は契約するだろうというドライバーに成長しましたね。
―福住仁嶺選手
土屋 : 速いけれど、野尻みたいに優しいよね。野尻が化けたように、速さはあるけど「けど」…、がついているのが仁嶺。亜久里は、育てたいと言ったね。上手さと強さを育てるためにね。
ー大湯都史樹選手
土屋:亜久里は、大湯を貸し出しているだけと言っていて、彼を取り返すよと言っていました。いつ帰ってくるの?と毎年年末に話していました。なんとかするよ!と。この言い方なら大湯はARTAに帰ってくると思ったね。言葉のニュアンスでわかるんだよ、23年の付き合いだからね。決定的な言葉を遣わなくてもわかるよね、帰ってくるってね。
―大津弘樹選手
土屋:あとひとり誰だって時に、今までのダンロップタイヤを履いていたけど、大湯に近いタイムで予選も決勝も走っている大津を自分が推薦。自分からデータを亜久里に見せて絶対ハズレじゃないからと言って、一回のテストで亜久里が“大津いいね”で決定しました。
―コンビの組ませ方
土屋 : ダンロップしか知らない大津と大湯は、これは2人をブリヂストンに変えたら時間がかかるので、2人とも散らそうという考えで、ブリヂストンを知っている野尻と仁嶺に分け組ませました。ですから、どっちのクルマもエースです。
―チームの様子などを
土屋 : テストと1戦を見ている限りですが、エンジニアの処理の仕方が経験値から割り出す解析能力が80%と非常に能力が高く、クルマに活かされています。それとクルマの整備の仕方が丸っきり違いますね。このカテゴリーでチーム無限はもがいていたかもしれない。それをメーカーと亜久里でうまく表に引っ張り出したと思っている。メカニックたちもいきいきしていてとても良いと思うよ。
ふとタブーであろうあの話を、土屋自ら語り始めたので、ここは思い切って考えを聞いた。
―あの一件について(スーパーフォーミュラ第3戦鈴鹿 8号車のチームメイト同士が接触リタイア)
土屋:僕は、おせっかいなんだよね。うるさいおやじだと思っているだろうね。絶対王者の野尻がミスをする。あんなことをするはずがない。それは間違いなく大湯をリスペクトしているからだろう。フロントが抜けるようなミスをする訳がない。でも野尻も悪いけど、野尻が前を行ったら大湯は絶対勝てないからね。大湯はピットのタイミングも考えると、野尻と同じタイミングでピットに入り勝負をさせてあげても良かったのではと思う。2秒も遅くなってからでは、そこは大湯も焦ってしまうよね。
大湯は、GT300クラスでARTAに所属していたから立ち直り方もわかる。2人には夕方にLINEをしました。2人とも返事が来ました。酒の飲めない大湯には早く寝ろと、野尻には酒飲んであばれろと送りました。
次の日、飯を食いにいくかと連絡してみました。野尻は、謝ることしかできないのでと。お前もやられて来たんだからこれ以上引きずるなと。大湯の気持ちは、野尻はすごくわかっているから、GTまで引っ張るなと言いました。まだ会ってないけれど(インタビューの後にはドライバーはサーキットに到着しているはず)、大湯は、ツイッターを見たら3日後に大黒を走っていたからもう大丈夫かな、きっとね。後に引きずるような奴ではないから。野尻は、大湯に申し訳ないという気持ちをしっかり持っているので、今回(第2戦)は大湯を立てるはず。彼らは俺が守ってやらないとさ。亜久里は「プロだからそんなの自分でやればいい」と言う性格だけど、僕はおせっかい焼きなんだよ。おせっかい焼きたくなるんだよね。
―最後にファンの方へ
土屋:ARTAファンに限らず、トヨタ、日産、ホンダ、あらゆるファンに良いものを見せること。プロらしいレースを見せることが目標。グループAの頃から、あたっても飛ばさないというレースをして来た。バトルがなかったらパレードランだし。バトルをお客様にしっかり見てもらう、喜んでもらう事で次に繋げていく。
そして、乗ることだけ、クルマを作ることだけが仕事じゃないよ。メカニック、エンジニア、裏方もかっこいいなって思うってもらうことも大事。“俺の事なんか見てない”と思っていたら大間違いだぞ!お客様は見ている!ということをメカニックに言ったことがあるね。オートバックス、ARTAとユニフォームやツナギに書いてある人間が、タイヤを運んでいる時、お客様に失礼なこと言ってしまった。言われた人は、すごく悲しい気持ちになったよね。目の前にいるメカニックではなく、ARTA、オートバックス、全体に対してそういう気持ちを抱くからね。お客様には優しくと…。
今年の開幕戦の前にドライバー4人呼んでそんな話をした。そして、自分のすべきこと、誰からこの仕事を与えられているかをしっかり考えろと。ありがとうございましたという感謝の気持ちを忘れるなと、“一流のトップドライバーたち”に指導しました(笑)。
また、俺は子どもを大事にする。キッズウォークは大事な時間です。子どものところにいって一緒に写真を撮るんだ。彼らは大きくなったら免許をきっと取得するし、そうなればオートバックスに来てくれる。すべてがオートバックスへ繋がる。これもそういうこと。ただ、キッズウォークもピットウォークもドライバーがメインだから、僕は少し あとからお手伝いをするだけなんだけどね。
今季もチームと共に戦い、ドライバーのファンサービスのお手伝いもして参りますので、新生ARTA team 無限 8号車、16号車の応援をよろしくお願いします!
歩み始めたARTA team 無限。棘の道も平穏に見える道のりも、土屋の大いなる愛情いっぱいのおせっかいと叱咤激励で心配ナシ。
次回からは、チームスタッフの言葉を綴って参りますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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