あらためて説明する必要はないだろう。鈴木亜久里総監督と、土屋圭市エグゼクティブ・アドバイザー。彼らはARTAを突き動かす「ツイン・エンジン」。かたやF1ポディウムフィニッシャー、かたやドリフト界のレジェンドにしてトップレーシングドライバー。強力かつポジティブなパワーでARTAを力強く牽引し続ける。その彼らが、2020年シーズンをARTAで戦ったドライバーたちについて語り合った。歯に衣着せぬふたりだけに視点は鋭く、言葉は厳しく、そして慈愛に満ちている。
ベテラン真一の深いフトコロ
鈴木:まず、ベテランから行こうかね。(高木)真一は、すごいよ。テストとかで自分はあまり乗らないで、若い子にいっぱい乗せてあげてレベルアップさせようとする。だから、彼と組むとみんな成長する。
土屋:普通はイヤだよ。年寄りは崖っぷちだから(笑)。自分が乗って自信を深めたい。だけど真一はちょこっと乗って、セットを決めて、タイヤが暖まったら、若い子に『あとはお前が乗れ』ってクルマを渡すんだよね。
鈴木:そうしてくれって頼んでいるわけではないのにね。あれは性格だろうな。
土屋:プロフェッサー。自分が持っているものを若い子にすべて教える。オレたちの時代はウソつかれて、出る杭は叩かれ続けた(笑)。もう年も年だし、4、5年前から毎年『今年で……』みたいのはあるけど、真一はいまでも速いからね。速い、上手い、強い。そして新人の育て方も上手。
鈴木:真一は、パートナーになる若い子たちを上手く育ててくれているね。
超正統派のスピードキング野尻
鈴木:次は野尻(智紀)。とにかく速いし、本当に才能があるドライバーだと思うな。
土屋:あの速さはすごいよね。あれで、もう少しだけ気持ちが強かったらさらに強いドライバーになると思うんだ。たとえば、バトルをしているとき、正統派すぎて相手に行かれてしまう場合もあるから。
鈴木:確かに。もっと熱くなってもいいよね。でも、野尻のクルマを感じとる感覚、セッティング能力は本当に高いと思う。
土屋:そうだね。すごく細かい部分まで見ている。オレからすると、少し細か過ぎるかなと思うくらい。100点のクルマってないわけだし、野尻がクルマの足らない部分をあまり気にせず行けるようになったら、さらに強くなるだろうね。だって、速さはピカイチなんだから。
鈴木:スーパーフォーミュラでは、彼のいい部分がより多く発揮されているように思うな。
仁嶺はチームのヒマワリ的存在
鈴木:若いドライバーに行こうか。まず(福住)仁嶺。
土屋:去年、亜久里が仁嶺を連れてきたとき、『大丈夫?』って聞いたよね。フォーミュラと違って1トン以上のものを曲げなければならないわけだからさ。そうしたら『大丈夫。ヨーロッパで走ってたやつだから』って。オレからすれば『ヨーロッパで走ってたから何だよ』って思ったけど(笑)、走らせてみたら本当に速かった。
鈴木:GT300最初のレースだった岡山の予選で、いきなりポールを獲ってきた。今年の開幕富士だって、GT500最初のレースでポール、しかもコースレコードまで刻んだ。
土屋:ぽわ〜んとして、ヒマワリのようなヤツなんだけどね(笑)。
鈴木:走る前はネガティブなことを言ったりするから『ポジティブに行けよ』っていつもいうんだけど、走るとポールポジションを獲って帰ってくる。悪くても2列目だし。
土屋:オレたちは絶対にネガティブなことは言わなかった。
鈴木:自分が1番速いって思っていたからね。予選が5、6番手でも『オレのせいじゃないよ』って(笑)。でも、いまの子たちって、自分がやらねばっていう意識がとても強い。
土屋:もう20年以上、若いドライバーを何十人も見てきたけど、1年生のときから無線を使えたのは仁嶺が初めてだったな。
鈴木:普通、最初は一生懸命でしゃべれないからね。決勝中、こっちが話しかけても返事はボタンだけ。『集中させてください』って返される。
レース中でも“お茶の間感覚”な大湯
鈴木:でも、大湯(都史樹)は、仁嶺よりもさらに冷静かもしれない。普通は走っていて、イッパイイッパイになるじゃない。『アーッ』とか『ワーッ』とかさ。でも、大湯は『あ〜、もうリヤタイヤ無理っすね、こりゃ〜』とか、何かガソリンスタンドでタイヤ交換する時みたいな感じで、どこか他人事みたいなんだよね(笑)。で、『がんばって』っていうと『は〜い。何とかやります〜』みたいな。
土屋:あれにはビックリだよね。
鈴木:普段とまったく変わらない。お茶の間で話しをしているみたいな感じ。
土屋:ほんと、ああいうタイプは大湯と仁嶺だけ。ふたりとも、オレがいったことをスグに理解するし。『1400kgもの車重があるクルマを曲げるんだよ、フォーミュラと違うんだよ』っていうと『ハイ、分かりました』って、できちゃうんだから。普通は時間がかかるのに、みんな器用だと思うよ。
初めてのクルマを乗りこなすノブの感性
鈴木:きっと感性だろうね。修業をして上手くなるのではなくて、クルマの動きや走らせかたに対する、何か感性を持っているんだと思う。ノブ(松下信治)もそうだったし。もてぎのレースで初めてGT300に乗ったとき、無線で『後ろからGT500の何号車が来ているよ』って伝えたら『あ、号車はいらないです。僕、どのクルマか分からないんで』だってさ(笑)。
土屋:感覚が外国人だよね。普通『はい、分かりました』とかいうでしょ(笑)。でも、やっぱり速い。普通は2、3回目のテストでファーストドライバーと同じタイムを出せるようになるけど、ノブは初めて見たクルマ、初めて乗ったクルマなのに、いきなり大湯のコンマ4秒落ちだったから。今まで750kgのクルマしか乗ったことがないのに、1400kgの鉄の塊を動かして自分の手足のように動かしちゃうんだから。ありえないよ。
鈴木:それにしても、若い子たちと一緒にやるのは面白いね。みんな、行くときはすごく行くし、予選もちゃんとタイムを出してくる。全員才能があると思うよ。
2020年シーズンの総括と2021年の野望
鈴木:それにしても、今年は悔しかったな。開幕前のテストから調子がよかったし、タイトルを狙える手応えは感じていたから。でも、ウチらはリタイアも多かったし、週末のクルマの仕上がり(速さ)に見合ったリザルトを残せなかった。やっぱり、いまのGT500はそんなに甘いもんじゃなかったね。それでも、クルマとドライバーに速さがあることは確認できたから、2021年はそれをしっかり結果に結びつけていきたい。相手がどうこうではなく、その積み重ねで結果は自ずとついてくるはずだから。
土屋:今年は、2019年のGT300チャンピオンとして、最後まで恥ずかしくないレースをするのがテーマだった。ただし、いまのGT300はBoPのサジ加減ひとつで結果が大きく変わってしまい、他のクルマと互角に戦える状況ではなかったというのが個人的な思い。とにかく残念なシーズンだったけど、大湯のようなドライバーと巡り合えたことはポジティブな要素だね。あんなドライバーを引っ張ってこられる亜久里は本当に強運の持ち主だし、きっと2021年もいいドライバーを連れてきてくれるはず(笑)。あとは適切なBoPとなってくれることを願っている。目標は、もちろんチャンピオンの奪還だよ。