GT500 野尻がこだわる“ワガママ”と“スピード”
野尻智紀と福住仁嶺。今シーズンも彼らはARTA NSX-GT500を駆りSUPER GTに挑む。ペア初年度だった2020年は3度ポールポジションを獲得し、優勝1回を含む3回のポディウムフィニッシュを果たすなど速さを充分に示した。しかし、シーズンの前半に成績が伸び悩んだこともあり、ドライバーランキングは5位に留まった。
「最終戦までしっかりチャンピオンの権利がある状態で戦うことはできましたが、いろいろなことがあり結果的に獲ることはできませんでした。チームメイトもエンジニアも変わり、ひとつひとつピースを積み上げていくことはできたと思いますが、それが少し足りていなかったように思います」と野尻。事実上のエースとして重圧を背負い、クルマを、チームを良い方向に導こうと力を尽くした。そして今年、野尻はさらに強い決意で新たなシーズンに挑もうとしている。
「チャンピオンを獲るために、これまで以上に積極的にチームを引っ張っていく覚悟です。たとえばクルマを開発するとき、これまでは自分が乗ってどこか腑に落ちない感じがしても、エンジニアに理由を説明されるとそれに従ってきた部分がありました。でも、僕もベテランの領域に入り、自分が間違ったことを感じているとは思わないし、正しいことを言えていると思えるまで調べたり考えたりしているので、最近は自分の意見を通すようにしています。1年間一緒にやってきて、うまくコミュニケーションをとれるようになってきたからこそ、ギクシャクすることなく善し悪しをハッキリ伝えられるようになったんです」
同じ体制で戦う2年目だからこそ信頼関係が深まり、新たなチャレンジに踏み出せるようになったのだ。「単に僕がワガママをいっているだけかもしれないですけど(笑)、チームはそれに応えてくれているし、確実に前進しています。また、クルマも良くなってきています。今年は結構思いきったアプローチでクルマを変え、岡山のテストでは、今まで僕らのクルマにはなかった、セッティング感度の高さが出てきたので、今後が楽しみです」
野尻には、チャンピオン獲得以外のターゲットもある。「個人的なことですが、仁嶺よりも速く走りたいですね。昨年、彼はいい走りをしてくれて、僕が足を引っ張ってしまったこともあったので、今年はそうならないようにしたい。すごく才能があって速いチームメイトが隣りにいてくれるので、レースをしていて楽しいし、自分にとって大きなプラスになっています」
信頼できるパートナーとともに挑む2年目。野尻はエースとしての自覚をさらに強め、不退転の覚悟で2021年シーズンを戦う。
高木が期待する佐藤蓮の潜在能力
GT300に関しては今シーズンも引き続きNSX GT3で参戦。ドライバーは大ベテラン高木真一が、新加入のルーキー佐藤蓮とペアを組む。昨年、高木は他シリーズのレースでマシントラブルにより大クラッシュを喫し、骨折によりSUPER GT終盤戦を欠場。しばらく療養に専念していたが、開幕前のテストでチームに復帰した。久々にNSX GT300のステアリングを握った高木だが、ブランクや怪我の影響をまったく感じさせない、キレのある走りを披露した。
「クルマに乗り降りをするとき以外に痛みはまったくなく、恐怖心も全然ないですね。体の中にはまだプレートやボルトが入っていますが、何だか逆に強くなったような気がします(笑)」と、高木は変わらず陽気だ。SUPER GT初挑戦の佐藤に対しては「FIA-F4で速かったし、ヨーロッパのレースで揉まれてきたので、またまた速い子が来たなという感じです。若い子といっても三者三様で、直近の2年間は宇宙人もいたし、地球人になりかけていた子もいたけど、やっと普通の人が来たかなと。まだ、何かを隠しているのかもしれませんが(笑)」と評する。
普通の人というのはもちろん褒め言葉であり、佐藤のレーシングドライバーとしての実績はまったくもって「普通」ではない。現在19才の佐藤は、2018年にFIA-F4でフォーミュラデビュー。翌2019年は14戦11勝という圧倒的な強さでシリーズチャンピオンに輝いた。さらに、2020年はフランスF4選手権に参戦し、4勝でシリーズ2位を獲得するなど短期間で輝かしいキャリアを築いてきた。
「スプリント以外のレースに出るのも、フォーミュラ以外のレースに出るのも初めてです。今までとは違う乗り方を求められる部分もありますが、そこで上手く合わせることができれば、ドライバーとしての幅が拡がるので、今年は大きなチャレンジだと思っています。もう個人レベルで参戦するような話しではないので、ポイントの取りこぼしをできる限り少なく抑え、ドライビングエラーを減らしていきたいと思っています。ARTAの雰囲気はとても良く、レースに集中できる環境を作ってもらえているので、それに報いたいですね」
新たなペアで臨む2021年シーズンの目標は「もちろんタイトル奪還です。ここまでのところクルマの仕上がりは悪くないし、何が何でもチャンピオンを獲ります」と、高木。今シーズンもまた親子ほど年が離れた若獅子をチームメイトに迎え、50才のベテランはますます意気軒昂である。