全8戦で争われる2022年シーズンのSUPER GTは、8月6〜7日に行われた第4戦富士をもって折り返しを迎えた。8号車ARTA NSX-GTの野尻智紀と福住仁嶺は現在、ドライバーランキングで首位と10ポイント差の7番手。彼らの第4戦そして今季ここまでのレースを紐解くと、今後に向けて課題になってくるであろう点、そして近年にない手応えの両面が見えてきた。
第4戦の舞台である富士スピードウェイは、8号車が得意としているコースのひとつ。実際5月に同地で行なわれた第2戦でも、他車のクラッシュの影響で 日没終了となる波乱のレースを制しており(規定の周回数に満たなかったためハーフポイント)、今回の富士戦に向けても「優勝への期待感があった(福住談)」という。
6日午前には予選に先立って公式練習がスタート。セッション序盤は濡れた路面が完全に乾ききっていなかったこともあり、1周のチェック走行を終えた後は路面コンディションの改善を待ってピットで30分ほど待機。その後野尻→福住の順で走行を行い、福住が専有走行で1分28秒321という9番手のタイムを記録した。GT500クラスで最も少ない25周という周回数に留まったが、野尻としては「ある程度のタイムは出る」というまずまずの手応えを感じていた。
予選ではQ1を福住が担当。トップからQ1敗退圏内の9番手までのタイム差がわずか0.267秒しかない熾烈なセッションとなったが、福住は最後のアタックをしっかりとまとめ、5番手で野尻にバトンを繋いだ。そしてQ2でも野尻が5番手のタイムをマークし、今季最高タイとなる5番グリッドからレースをスタートすることとなった。
ただ、野尻が予選後に語っていた「あれ以上速いタイムを出すには、何か違うことをする必要がある」というコメントは気がかりでもあった。それは「自分たちのベストを出し切れた」という風に解釈することもできるが、逆を返せば自分たちよりも前のグリッドポジションを確保したトヨタ・GRスープラ勢や日産・Z勢に対してどう太刀打ちすればいいのか、苦慮しているようにも感じられた。
99周(当初の予定は100周)という“中距離”のレースディスタンスで行われた決勝レース。スタートドライバーは福住が務め、37周を走って野尻にバトンタッチ、そこからは野尻が第2スティント、第3スティントを連続で走った。8号車は序盤にペースの上がらない車両をパスし、さらにペナルティストップを消化した車両の前にも出たものの、自分たちよりペースで勝る車両2台に先行を許したため、結果的にスタートポジションと同じ5位でチェッカーを受けた。優勝したマシンとのタイム差は41秒、4位とのタイム差は26秒であった。
「僕たちとしてはうまくまとめられたレースウィークだったと思います。クルマ的にもそうですし、タイヤの選択や戦略、それに合わせてドライバーがどういう走りをするべきか……それらも含めてポテンシャルを引き出せたかなと思います。逆に言うと、あれ以上どうやって順位を上げられたのか考える方が、今の段階では難しいですね」
野尻はレースをそう振り返る。予選と同様、自分たちのできる限りの仕事ができたという一定の達成感がある一方で、上位陣との埋められない差に歯がゆさを感じている……そんな複雑な感情を抱えているように見えた。実際、今回8号車が予選・決勝共にホンダ・NSX-GT勢の最上位であったことを考えても、「ポテンシャルを引き出せた」という野尻のコメントには説得力がある。
一方の福住も、野尻と同じ思いを感じていた。
「ロングランのセットアップは悪くない形に仕上げられたと思いますが、レースでは序盤から少しずつ(トップから)離されていくという形になっていきました。これが今回の僕たちのベストパフォーマンスじゃないかと思っているので、チーム全体としてできることはできたのではないかと思います」
「(同じく富士で開催された)ラウンド2の時点では、あそこまでの差はありませんでした。ライバルが戦闘力を上げてきているような印象で、正直驚きましたね。後半戦、どこのサーキットに行っても楽じゃないかもしれないと感じました」
しかし、今季ここまでの8号車にはポジティブなデータもある。8号車は野尻/福住のコンビになって3年目を迎えるが、前半4レースの獲得ポイントは直近3シーズンで最多なのだ(2020年4点、2021年13点、2022年21点)。タラレバにはあるが、今季は第2戦の優勝がハーフポイント(20点→10点)になっていなければ、もっと得点を稼いでいたことになる。
野尻/福住組は2020年にランキング5位、2021年にランキング2位を獲得しており、いずれも最終戦までタイトル争いに絡んでいるが、後半4レースで流れを掴んで大量得点を稼ぐというパターンであった。「それもそれでひとつの手かもしれませんが……(笑)。やはり、どのタイミングでも強いチームがチャンピオンを獲得できると思います」と福住が語る通り、スーパーGTの歴史を振り返っても、過去2シーズンの8号車のような前半表彰台ゼロのチームがタイトルを獲得した例はない。
「今までやってきたことをあまり大きく変える必要はないと思います。こんなに流れの悪くないシーズン前半を送ることはありませんでしたから。今年は確実にポイントを持ち帰るようなレースができています」(福住)
「(GT500クラスは)すごく接戦なので、どこかのチームがすごく速く走れる状況かと言えばそうではありません。今大事なのは、気候の変化でダウンフォースの総量が変わってきた時にクルマをしっかり合わせられるか、そこだと思います。引き続きセットアップを外すことなく走ることが重要です」(野尻)
トップに40秒の差をつけられた今回のレースに、ふたりが100%満足しているはずはない。もちろん悔しさや歯がゆさは感じているだろうが、前述の通りこれまでの2シーズンとは明らかに異なるポジティブな傾向も見えつつある。混戦模様のGT500クラスで、彼らが今後どのよう戦いぶりを見せてくれるか楽しみだ。
文/戎井健一郎(motorsport.com)
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