2019年にARTAからSUPER GTのGT300クラスにフル参戦デビューを果たしていきなりチャンピオンを獲得し、2020年のGT500昇格後は野尻智紀と共に8号車ARTA NSX-GTのドライバーとして毎年タイトル争いに絡んできた福住仁嶺。しかし2022年シーズンはランキング12位に終わり、壁にぶち当たる1年となった。

「ここ数年は後半戦に追い上げられたことで、悪くない位置でシリーズを終えられました。今年は序盤からポイントを積み重ねることができ、期待は非常に大きかったのですが、その中で日産勢を中心に周りのポテンシャルも高くなってきていると理解していたので、甘くはないと思っていました。それに加えて不運もありましたし、自分たちのレース展開もうまくいかず、思ったよりも辛いシーズンになりました」

もてぎでの最終戦後、シーズンをこのように総括した福住。彼の言葉通り、今季から投入されたZを駆る日産勢が台頭する中で、8号車はシーズンを通じてポールポジションや優勝を狙えるマシンに仕上げることに苦戦し、なんとかポイントを積み重ねられそうな展開に持ち込んでも不運やピットのミスに足元を救われるというレースが続いた。こういった傾向は特に後半戦に顕著であった。

そんなもどかしいレースが続く中で、福住自身も自らのドライビングに納得がいかない日々が続いていた。第7戦オートポリスの予選Q2で6番手に終わった際も、自信を持ってアタックできていなかったことを明かし、「自分自身の走りで言えば50点もなかった」と酷評。続く最終戦もてぎでも同じく予選6番手とまずまずの順位だったものの、「ここ数戦、クルマをうまく操ることができていない。走りの方でアジャストできなかった」と吐露していた。

こういったコメントには、福住の自己批判的な性格も多かれ少なかれ影響しているのかもしれない。実際、彼と仕事を共にしてきた関係者からは、福住の走りのセンスや何でも乗りこなす順応性を高く評価する声が多く聞かれる。

しかし福住は「どんなクルマでも走れるというのは皆さんが勘違いしているだけで……自分自身はそう思っていません」と苦笑する。

「全てにおいて、まだまだ成長しきれていないというのが正直なところです。今年はドライビングも本当に良くないし、クルマを作る以前に自分の走りを見直さないといけないなと思います。そこだけですね」

「ドライビングの技術という点では、幅が広くないとダメだと思います。でもその幅もだんだん狭くなってきているのではないかなと思います。本来ならそういうことはないと思うんですけど……とにかく僕は今その辺りがうまくいっていないと思うので、そこが一番の課題だと思います。自分自身の問題だけです」

どこまでも自分に厳しいコメントを残す福住。彼はGT500でもスーパーフォーミュラでもランキング2位を獲得した経験があり、どちらも王座まであと一歩というところまで迫っているが、今季は両カテゴリー共に苦しいシーズンを送った。そういったことも、彼のバイオリズムに変化をもたらしている可能性も否定できない。

そんな福住も、2023年シーズンは心機一転、新たな体制でSUPER GTに挑む。新たに2台体制となるARTAの“16号車”のドライバーとなり、大津弘樹とコンビを結成。福住と大津は鈴鹿サーキット・レーシングスクールの同期生でSUPER GTデビューも同じタイミングではあるが、ブリヂストンタイヤでの経験という点では福住が“先輩”となる。

「これからはチームを引っ張る立場になるので、ふたりで乗りこなせる良いクルマを作っていきたいです」と語る福住。環境の変化、そして新たな役割に向けての覚悟が、彼のレース人生におけるブレイクスルーとなるかに期待したい。