大きなリアウイングにカナード、そして地を這うような低い車高。これら特徴はすべて空気を味方につけるためのレーシングカーならではの特徴だ。
ARTA 55号車であるNSX GT3は、空力的にどのような特徴や強みがあるのか。2020年シーズンから55号車を担当する岡島エンジニアに話を聞いた。
ベース車種の空力特性の違いがレースを面白くする
スーパーGT GT300クラスは、ARTA 55号車であるNSX GT3をはじめ、日産GT-R NISMO GT3やトヨタ GRスープラといった国産スポーツカーだけでなく、メルセデスAMG GT3、ランボルギーニ ウラカンGT3 EVOなどバラエティ豊かな車種が走るのも大きな魅力。またFIA-GT、GT300(旧JAF-GT300)、GT300MC(旧マザーシャーシ)という3種類のマシンが混走する点も見逃せないポイントだ。
そして、それぞれのマシンによって多少違いはあるものの、レギュレーションにより、ボディデザインを大幅に変更することができない。
元となるそれぞれの市販車を見ると分かるように、同じGT300クラスを戦うマシンであっても、デザインはもちろんのこと、全高や全長といった大きさが異なる。つまり、ベースとなる車種によって空力特性は大きく違い、サーキットによってその空力特性が有利にも不利にも働き、レース展開をさらに面白くしているのだ。
ドラッグの少なさこそNSX GT3の強み
ホンダ NSXがベースとするARTA 55号車の空力特性は、当然のことながら市販車のNSXが元となる。そこで、ARTA 55号車であるNSX GT3には、空力的にどんな特徴や強みがあるのか?岡島エンジニアに話を聞いた。
「NSXは他車に比べ、空力的にドラッグ(空気抵抗)が少なく、最高速という点で有利です」(岡島エンジニア)
確かに、ミッドシップレイアウトのNSX GT3は、その形からしていかにも“速そう”な見た目である。では、そのドラッグの少なさは、具体的にはどのような場面で表れているのだろう。
「分かりやすいのはフジ(富士スピードウェイ)ですね。ターボ車ということもありますが、他メーカーよりも最高速が速いんです。空力は速度の2乗に比例して影響が大きくなるので、速度が高ければ高いほどドラッグの小ささがより有利に働きます」(岡島エンジニア)
エンジニア視点でそのほかに、NSX GT3のデザインで優れているポイントはなんだろうか。
「これまで何台かGT300クラスのマシンを見てきましたが、特徴的なのはリアのディフューザーですね。一般的にリアディフューザーは車両に対して真っすぐ伸びている場合が多いのですが、NSX GT3は後ろに向けて広がっているんです」(岡島エンジニア)
リアディフューザーは、主に車両下部を流れる空気をスムーズに後方へと抜く役割を持つ。2019年から投入された“Evoモデル”は、フロントスプリッターとリアディフューザーの形状が見直されているが、この広がったリアディフューザーこそ、NSX GT3のドラッグを軽減する上で大きな役割を担っているのは間違いない。
データに裏打ちされたNSX GT3の空力デザイン
「以前HPD(ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント)のエアロ開発エンジニアに直接話を聞く機会があったんです。その時に風洞試験のデータを見せてもらい、データをもとにしっかりと仕上げているなという印象でした」(岡島エンジニア)
JAF-GTやマザーシャーシに比べ、変更できる箇所が少ないFIA-GTのNSX-GT3だからこそ、出荷されるパッケージの出来が非常に重要。市販車の面影をしっかり残しつつ、レースで早く走らせる知恵と工夫が、NSX GT3のデザインには詰まっているのだろう。
NSX GT3が持つ空力の優位性を活かし勝利を目指す
NSX GT3でGT300クラスに参戦しているチームは、ARTA以外にもいくつかあるが、それらライバルチームとの違いはあるのだろうか。
「NSX GT3はFIA-GTなので、独自の空力パーツは使用できず、どのチームも同じEvoパッケージです。ただ、チームによって戦略が違うので、セットアップの方向性は異なります」(岡島エンジニア)
制約の中で最良のセットアップを導き出す
2021年シーズンから、GT300(旧JAF-GT300)、GT300(旧JAF-GT300)に対し、シーズン中に空力パーツを変更することに制限が設けられた。(2020年までは規定なし)
とは言え、登録状態から一切変更できないFIA-GTに比べ自由度は大きい。空力だけでマシンの優劣を付けられるものではないが、GT300(旧JAF-GT300)やGT300(旧JAF-GT300)に比べ、FIA-GTに属するNSX GT3が不利であることは否めない。そんな状況の中、ARTA 55号車は一体どんな対策を行っているのだろうか。
「空力パーツをサーキットに合わせて変更できないのは正直辛いところですが、NSX GT3がほかのマシンに比べて空力面で劣っているとは思いません。セットアップできる範囲は限定的ですが、ウイングの角度や前後の車高を調整することで空力特性をセットアップしています。」(岡島エンジニア)
複数の規定や車種が混走するGT300クラスでは、それぞれ得意なサーキット、不得意なサーキットが異なる。残りのシーズン、制約のある中ARTA 55号車がどんな戦略で勝利を掴んでいくのか。
同じNSX GT3を使用するチーム、そして、違う車種を使用するチーム。それぞれの戦い方も観察しつつ、ARTA 55号車の活躍に期待していただきたい。
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