シーズンの流れを左右し戦略にも影響するサクセスウエイトとは? | ARTA

2021.8.6

2021.8.6

シーズンの流れを左右し戦略にも影響するサクセスウエイトとは?

SUPER GTでは、獲得ポイントに応じて次のレースでサクセスウエイトを積まなければならない。100分の1秒を争うGTマシンにとって、サクセスウエイトがどんな影響を及ぼし、どんな対策が必要なのだろうか?今回はARTA 55号車を担当する岡島エンジニアに話を聞いた。

軽さが武器のGTマシンにとって大きな影響を及ぼすサクセスウエイト

シーズンの流れを大きく左右し、SUPER GTをより面白くしているのがサクセスウエイト。2020年シーズンまではウエイトハンデと呼ばれていたが、2021年シーズンからサクセスウエイトに名称が変更された。(略称はSW)

搭載される重さは、前戦までのポイントに対しGT500クラスで2kg、GT300クラスでは3kg(第7戦はGT500クラスで1kg、GT300クラスでは1.5kg。最終戦はノーウエイト)。例えば、前戦を1位でゴールし20ポイントを獲得した場合、次戦ではGT500クラスが40kg、GT300クラスは60kgとなる。つまり、成績が良いほど積むウエイトが増えることでハンデとなり、スーパーGTのシーズンをより面白くする重要なファクターだ。

GT500、GT300問わず、軽さが大きな武器であるGTマシンにとって、ウエイトを積むことでマシンの運動性能に甚大な影響がでる。成人男性なら持ちあげられる30kgのウエイトであっても、そのマシンのストロングポイントを帳消しにしてしまう恐れがあるのだ。

50kgのウエイトでラップタイムは1秒遅くなる

サーキットによって違いはあるが、第4戦(実質的には3戦目)が行われたツインリンクもてぎの場合、ARTA55号車のNSX GT3は、重量が50kg増えると約1秒程度ラップタイムが遅くなる。

実際の予選タイムを見ると、上位陣は1秒の間に7台が入っていることからも分かるように、レースを戦う上で1秒の差は非常に大きい。

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2020年シーズンの最大ウエイトは100kg!

そんなラップタイムに直接影響するサクセスウエイト(2020年シーズンはウエイトハンデ)を、ARTA55号車は2020年鈴鹿で行われた第6戦で100kgものウエイトを積むことになった。

100kgという数字だけでも十分重たいということは想像に難くないが、市販車に積んだ場合、一般ドライバーでも車の運動性能が大きく変化することを感じられるだろう。

世界でも有数の難関サーキットとして有名な鈴鹿サーキットは、コーナー数が多く高低差が大きいため、ウエイトを積むことで“慣性力”がより大きく発生する。

慣性力とは、物体が一定の力で同一方向に進もうとする力のこと。例えば、車が0km/hから加速する際、慣性力はその場に留まるように働き、左右に連続するコーナーでは、直前のコーナーで発生した遠心力が慣性力となって外側へはらむ方向に働く。

もちろん、ウエイトを積んだときの影響は、ARTA55号車だけの話ではなく、すべての車両に影響する。シーズンが進むにつれポイント上位のチームに課せられるハンデは大きくなり、下位チームとの性能差を小さくすることで、よりエキサイティングなレース展開が観られるのだ。

サクセスウエイトを積んだ時の戦い方

観ている側にとっては、よりレースを面白くしてくれているサクセスウエイトだが、チャンピオンを狙うチームにとってはたまったものではない。FIA-GTのARTA55号車 NSX GT-3の重量は1260 Kg。JAF-GTやマザーシャシーに比べ重量で不利と言われるなか、サクセスウエイトの影響はとても大きいはずだ。

大きくなるマシンの動きをいかに抑えるか

2020年シーズン、最大100kgのウエイトを経験しているARTA 55号車。実際レースではそのウエイトがマシンにどんな影響を与えるのか?ARTA 55号車を担当する岡島エンジニアに話を聞いた。
「レーシングカーの場合、ウエイトが重くなることで力(慣性力)が増え、車の動きが大きくなることで、エアロの空力効果やタイヤの接地面積の変化が大きくなってしまいます。できれば100kgなんて積みたくないですが、スーパーGTを面白くしているポイントでもあるので仕方ないですね。」(岡島エンジニア)
確かに、法定速度で行動を走る市販車に比べ、ハイスピードで走行するGTマシンにとって、空力とタイヤの接地面の変化はできるだけ小さくしたいところだ。
では、レースを戦う上でウエイトが重たくなったとき、どんな対策を取っているのだろうか?
「対策としては、とにかく車の動きが大きくならないよう抑え込む方向でセットアップします。コースレイアウトやコンディションにもよりますが、バネレート(スプリングの硬さ)を上げたり、車高を調整することが基本になります。」(岡島エンジニア)

シーズン後半戦はサクセスウエイトをどう制するかに注目

繰り返しになるが、100分の1秒を争うレースで、さらに軽さが大きな武器であるレーシングカーにとって、サクセスウエイトの影響はかなりなもの。一つでも上のポジションでゴールし、1ポイントでも多くポイントを獲得することが目標だ。

しかし、その分シーズン後半になればウエイトが重くなり、単純なタイムはもちろん、タイヤへの負担も大きくなる。

シーズンが進むにつれどんどんウエイトが重くなる上位チームに対し、ウエイトが軽いチームが後半戦をどう挑んでいくのか。ウエイトの搭載量を知り、各チームの戦略やレース運びがどう変わるのかに注目してみるのも、SUPER GTをより面白く観るポイントだ。

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