2020 AUTOBACS SUPER GT Round8 たかのこのホテル FUJI GT 300km RACE。
2020年の最終戦は55号車にとってはGT300カテゴリで逆転シリーズチャンピオン獲得の可能性もあり、正念場であった。
マフラーから噴き上がる白煙
しかし、公式テスト中のわずか6周目に、大湯都史樹からの無線が入る。
「なんだかエンジンの調子が悪い」
マシンがピットに戻ってきた。タイヤもまだ暖まっていない。
点検の為、ガレージ内でエンジンをかけると、マフラーから勢いよく噴き上がる白煙。
4回行い、すべて同じように白煙が…。
一同が、顔を見合わせる。
午前10時40分、ARTAのピットで「のろし」があがってしまった。
そこからは一気に慌ただしくなる。
エンジンフードが外され、クルマに半乗りになるメカニック。
ライトで内部を照らし…様子を伺う。
拭き取り用のロールペーパーが物凄い勢いでなくなっていく。
誰もが予想していない形で迎えた土曜日。
メカニックの一人から思わず、悔しさ混じりのため息が漏れた。
「あの状況の中、トラブルがあった時点で、あのセッションを走ることは出来ませんでした。確認は絶対なんです。簡単なトラブルであったり、(プラグが)かぶっていたから煙が出ただけ、という可能性がありました。実は、データ的にはあまりおかしくなかったのでよくわからなかったんです。このクルマではないですが、かなり前にエンジンが壊れているかもしれない、となって急いで変えてバラしてみたら壊れていなかったケースがありました。その経験があったので念入りに確認しました。」(池田メカニック/GT500&300クルーチーフ)
※エンジンの燃焼室に、オイルが混ざってガソリンが点火すると白煙が出る。暖気後の加速時、煙幕のように白煙が出る場合はエンジンまわりの不調が疑われる。
そして、55号車はエンジンの載せ替えが決定する。
逆によかった。間に合わせる、乗り越える。
何度も様子を見にきた土屋エグゼクティブアドバイザーは、苦笑いを浮かべながら「最終戦でねぇ…」ポツリと呟く。
本当に、何故、このタイミングで。
シリーズチャンピオンの可能性があった55号車。GT500とダブル優勝への期待もあった。
土屋エグゼクティブアドバイザーは少し時間を置いて、更にこう言った。
「逆によかったよ、決勝中に壊れなくて」
はっとさせられた。
そうなのだ。
ARTAは不屈な精神力で耐え抜き、幾度となく困難を乗り越えてきた。
ふとガレージの外に目を向けると目の前には、富士のストレートを目にも止まらぬスピードで左から右へ過ぎ去っていくライバル車達。
そして、その向こうに一望できるは…ARTAの観客席。
決勝に間に合わせる。
55号車メカニック、総動員で懸命にとりかかる。
こちらではボディ。
こちらではマフラーまわり。
こちらではエンジン。
進む作業
作業を進めながらも先輩から後輩にアドバイスをする様子が見られ、こうしてまたひとつ実践の中でスキルを重ねていくのだな、と感じさせられた。
そして、ピット内部の黒い大きな箱がご開帳。
中には、新品のエンジン。
そっと銀色に光るそれは、複雑に絡みあった構造で、大きさもさることながら、見るからに重いことがわかる。
エンジンフードだけでなく、リア部分がごっそりと外され、内部が露わになった。
作業は進む。