影の立役者-55号車NSX GT3 修復の舞台裏 | ARTA - パート 2

2020.12.3

2020.12.3

影の立役者-55号車NSX GT3 修復の舞台裏





ガスバーナーで焙ることで熱膨張させクリアランスを作る様子

そして、クレーンが準備された。

午後6時半、新しいエンジンがようやくクレーンの近くへ…

   

クレーンの紐をエンジンに巻き、「せーの」の掛け声で、メカニック全員で支えながらエンジンを一旦持ち上げる。

下敷き代わりの木材が抜かれる。木材が、1枚、コトリと床に落ちた。 邪魔にならぬよう注意を払いながら、そっと元あるところに戻してみた。

   

他のメカニックが支える中、大木メカニック(GT300チーフメカニック)がエンジンの下に、言葉通り「潜り込む」。

配線などのボルトを1度触る必要があるためだ。

   

とてつもなく重そうなので、エンジンがもし、今このタイミングで落ちたら…と固唾を呑んで、見守る。

そして少し作業が進んだところで、潜り込んだ大木チーフが自分の足先にいるメカニックに向かって指示を出す。

「今のうちに、木、綺麗に整えて!」

もう少し作業が進んだら、エンジンをその木の上に載せるためだ。

配慮が足りなかったな、と反省する…。

潜り込んだまま、作業は続く。

    

作業のさなか突然「GPS信号が、失われました」とまるでカーナビ音声のようなアナウンスが流れた。修復作業とはまったく関係のないアナウンス。

誰もが集中し、エンジンを支える中での、そのあまりにも不自然且つ唐突なアナウンスは、「失われたの?(笑)」「なんで急に」と、ちょっとした笑いをもたらし、はりつめていた場の空気は、少しだけ緩んだ。

後から聞けば、エンジニアのスマートフォンから急に流れたものだという。

潜り込んでの作業が終わったので、エンジンは一度置かれ、また作業は進む。

   

午後8時、新しいエンジンが、載った。

    

「…ふぅ」と一安心はしたものの、区切りでしかないので、ここからまた組み上げだ!と、気持ちを奮い立たせたそう。

終わると思っていた作業時間からは6時間超過の、なんと、日を跨いだ午前3時。

ようやく、すべてが完了したという。

影の立役者

そして翌日。

55号車NSX GT3は大湯・松下コンビの最後尾29番スタートから怒涛の22台抜きを果たし、7位でフィニッシュした。

メカニックが繋げたからこその、この結果。

宮田カメラマン(ARTAオフィシャルフォトグラファー)がこう言っていた。

「僕はこのガレージを、舞台だと思っている。」

修復という舞台裏、正に影の立役者を見た。

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