頂上決戦で露呈した“トップとの差” | ARTA

2021.12.1

2021.12.1

頂上決戦で露呈した“トップとの差”

富士スピードウェイで行われた2021年のSUPER GT最終戦。GT500チャンピオンをかけてレースに臨んだ8号車ARTA NSX-GTだったが、悲願達成は叶わなかった。

小さな問題が、予選結果に大きく影響。ライバル陣営の先行を許す

第6戦オートポリス、第7戦ツインリンクもてぎと2連勝を飾り、どのチームよりも勢いをつけて最終戦にやってきた8号車。金曜日の朝からスタッフは念入りに準備を行い、ドライバーとエンジニアはいつも通りコースの下見に出かけた。

その表情を見ると、変にプレッシャーを感じていることもなく、いつも通りといった印象。特に野尻智紀と福住仁嶺は、翌日からの走行に向けて、静かに闘志を燃やしているように映った。

予選日の朝は富士山も一望できるほどの快晴。朝の公式練習が始まる時は気温9度と、厳しい寒さとなったが、8号車は順調にマシンのセッティングやタイヤの確認を進めていったが、両ドライバーともクルマの仕上がりに若干の違和感を抱いていた。

「走り始めから、小さな問題はありましたけど、走行を重ねるごとに少しずつ良くなっていきました。ただ、どうしても、全部を解決することはできなかったです。冬(開幕前)に、富士でテストをした時から抱えていた問題があって、気温が下がったことで、その問題がまた出てきているのではないかなと感じています」(福住仁嶺)

「朝の走り出しから、クルマはそんなに悪くはなかったです。ただ、すごく細かいところで荷重ののり方が今までと違うなと感じるところがありました。それが予選になっても少し残っていたところはありました」(野尻智紀)

注目の公式予選。Q1は野尻智紀が担当し、トップから0.391秒差の4番手通過を果たすと、続くQ2でも福住仁嶺が渾身のタイムアタックを披露。1分26秒169と、従来のコースレコードを上回る速さをみせたが、トップから0.405秒差の6番手と、少し不本意な結果となった。

「今回はトヨタ勢が速くて、全然楽にはいけないなと思っていましたけど、予選が始まってみれば五分五分くらいで競り合えていたと思います。その中で1号車はうまくまとめていたと思いますけど、僕たちはコンマ何秒かQ1から足りていないところがありましたし、Q2に関しても僕自身ドライビングを合わせきれていなかったです」

「自分に対して少しガッカリな予選だったので、明日はしっかりと取り返したいなと思っています」(福住仁嶺)

いつも通り攻めた予選だったとはいえ、やはりシリーズチャンピオンがかかる失敗の許されない1戦。福住仁嶺は、その見えない重圧と戦いながらも、満足いくパフォーマンスを発揮できなかったことを悔しがっている様子だった。

しかし、一番大事なのは日曜日の決勝レースである。エースの野尻智紀は、確かな手応えを感じている様子だった。

「6番手というのは、決勝に向けて考えれば、十分な位置なのかなと捉えています。今回は1号車も当然速いでしょうし、スープラ勢も速そうなのは14号車だけではないですからね。公式練習で決勝を想定したロングランをしましたが、僕たちはライバルと比べてコンマ3~4秒足りないかなという印象でした。でも、直すべきところは分かっているので、そこが良くなれば、決勝では十分狙えるかなと思います」

「結局は、そこでしっかりと修正して、きちんとパフォーマンスを上げられるところがチャンピオンになると思うので、ドライバーの力だけではなく、全てを整えてチャンピオンを獲りにいきたいです」(野尻智紀)

今季は、予選を終えた段階で、問題解決の糸口が見つからず、どんよりとした空気に包まれていたこともあった8号車だが、今回は違った。逆転チャンピオンのために……それぞれが出来る最大限のことをやろうという、前向きな雰囲気のまま、夜にピットガレージのシャッターが閉じられた。

ピット作業での思わぬハプニング。明暗を分けた“10秒のタイムロス”

迎えた日曜日の決勝レース。コロナ禍で様々な制限がかかるなかで開催されてきた今年のSUPER GTだが、緊急事態宣言の解除に加え、イベント動員数の制限緩和もあり、富士スピードウェイには3万5300人のファンが集まった。

6番手から逆転チャンピオンに向けてスタートを切った8号車ARTA NSX-GT。いつも通り、前半スティントは福住仁嶺が担当した。1周目に1台を抜いて5番手に上がると、その後も前のマシンを積極的に追いかけていくレース運びを披露。さらに前のマシンを攻略したいところだったが、途中からペースが鈍り始めてしまう。

「タイヤの温まり自体はそんなに悪くない感じでした。ウォームアップが早かったおかげでひとつポジションを上げることができました。そこから先も何台か抜けるかなと思いましたが、クルマのバランスが早い段階で崩れてきちゃって、ペースを維持するのがやっとという状態になり……結局5番手からポジションを上げられませんでした」(福住仁嶺)

スティントの終盤には後方から迫り来るライバルを抑える展開となってしまった福住仁嶺だが、しっかりとポジションを守りきり、22周目にピットイン。早めにドライバー交代を済ませて逆転をしようという戦略だった。

ところが、このピットストップで“ハプニング”が発生してしまった。ドライバー交代の際に、左側のドアが外れてしまう事態が発生。すぐに装着し直したものの、この影響で約10秒程度の時間をロスしてしまった。

この結果、一時は11番手まで後退してしまった8号車。“逆転チャンピオンの可能性は潰えたか……”。誰もが、そう思い始めていたが、ここからARTAのエースが怒涛の追い上げを開始していく。

1台ずつ前のマシンを追い抜いていいき、残り20周のところで6番手に浮上。さらに上を目指しアクセルを踏み込んでいったが、ライバルであるトヨタGRスープラ勢に追いつくことはできなかった。結局6位でチェッカーを受け、逆転チャンピオンの夢は叶わなかった。

ピット作業でのアクシデントがなければ……。そう感じている方も多いかもしれない。しかし、ドライバーの2人は、それ以外の部分で悔しさを感じている様子だった。

「ピット作業で、ドアが取れて落ちてしまうというアクシデントに見舞われてしまいました。そこでタイムロスしてしまったのが、今回の一番痛いところだったのかなと思います」

「その後、野尻選手が早いペースで走ってくれて、挽回はできましたが、スープラ勢に敵わないところもあって、結果的に上位に行くことができず、6位という結果に終わってしまいました。僕自身のところで、走りの部分で色々と見直さないといけないという思いがあります」(福住仁嶺)

「ドアが外れるアクシデントで10秒~15秒ほどロスしていましたが、それを差し引いたとしても優勝はできなかったと思います。そう考えると、ピット作業でのアクシデントだけではなくて、単純に僕たちが今週末勝てるだけの速さを出せなかったというのが、一番悔しいところです」

「もちろんドアが外れることも、本来起きてはいけないことですけど、こういった小さなほころびが、形として出てしまうのが、最終戦の怖さでもあるのかなと思いました。悔しいですが、こういうレースを二度としないように、来年に向けて、チーム全員で強くなっていかないといけないなと思っています」(野尻智紀)

最終的に野尻智紀/福住仁嶺組はドライバーズランキング2位となったが、シリーズ表彰に臨む2人に笑顔はなかった。“チャンピオンを争える状況で最終戦を迎えたものの、1つしかない栄冠をつかみ取るまでの力が、今の自分たちにはない”それを再認識している様子だった。

そして、2人がサーキットを離れる頃には、すでに2022年に向けて気持ちを切り替えようとしていた。「来年こそは必ずチャンピオンを獲る」という強い想いを、2人から感じられた。

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