2021年SUPER GTに初挑戦した佐藤蓮。シーズン締めくくりとなる最終戦富士では、思わぬ形で注目を浴びることとなってしまった。
トラブルで予選日は1周もできず、ぶっつけ本番で決勝レースへ
55号車ARTA NSX GT3の高木真一/佐藤蓮は、首位から10ポイント差のランキング3番手で最終戦を迎えた。結果次第では逆転チャンピオンの可能性もあり、チームも気合いを入れて金曜日から現地で準備を進め、翌日の公式練習に備えた。
ところが、ここで“まさか“の事態が発生する。公式練習では高木真一が最初に走行を担当し、クルマの状態をチェックしていたのだが、そこで電気系のトラブルが発生してしまい、セッションの大半を修復作業に費やすことになった。
チームも全力で対応にあたったが、原因を究明することができず、予選も不安を残したまま臨むことに。幸いトラブルの再発はなかったが、マシンのセッティングやタイヤの確認ができていなかったことが響き、高木真一が担当したGT300クラスのQ1A組で10番手。勝負の1戦で上位に食い込むことができなかった。
それだけでなく、予選日に起きたトラブルの影響で、佐藤蓮はこの日一度もマシンに乗り込まないまま、翌日の決勝レースに臨むこととなった。
「予選日はトラブルで公式練習も含めて1周もできませんでした。当日にいきなり乗ってレースというのは、もちろん今まで経験はなかったことでした。なので、決勝日のウォームアップで乗って、調整しながらレースに臨みました」
勢いよく追い上げを見せるも……
晴天の中で迎えた今季最後のレース。20番グリッドからスタートした55号車は、高木真一が序盤からペースよく周回し、次々と前のマシンをパス。13周目の段階では11番手まで順位を上げていた。
途中セーフティカーが出るなど波乱含みの展開となったが、高木真一は予選日に十分走り込みができなかったハンデを微塵も感じさせない走りで、前のマシンを追いかけ、23周目にピットイン。佐藤蓮にバトンをつないだ。
後半戦に入って速さが際立つようになった佐藤蓮。ここでも着実に順位を上げ、ランキング首位である61号車スバルBRZの真後ろまで接近した。そして、チェッカーまで残り15周というところで射程圏に捉え、61号車を追い抜こうとしたのだが……。1コーナーの先にいたGT500クラスの1号車ホンダNSX-GTに接触してしまった。
55号車はマシンにダメージを受け、そのままリタイア。それだけでなく、GT500クラスのチャンピオンをほぼ手中に収めていた1号車も接触の影響で緊急ピットインを余儀なくされ、彼らの年間王座の可能性が絶たれてしまった。
レース後、ARTAの鈴木亜久里総監督、土屋圭市エグゼクティブアドバイザー、佐藤蓮をはじめ、55号車の主要メンバーが1号車のピットへ謝罪にいった。その時、佐藤蓮は目に涙をため、深々と頭を下げていた。
「謝って済む問題じゃありませんが、鈴木亜久里と一緒にドライバーを連れて1号車に謝りに行ってきました。チャンピオン争いをしているチームでしたので、心から謝罪をしてきました。本当に申し訳無いと思っております」(土屋圭市エグゼクティブアドバイザー)
その後、パドックではマシンや機材の撤収作業が進んでいたが、佐藤蓮はショックのあまり控え室で座り込み、立ち上がることもできない様子だった。
「接触してしまった1号車の皆さま、チームの皆さまには申し訳無い気持ちでいっぱいです。本当に申し訳ありません」
「絶対にやってはいけない失敗だったと身にしみて感じています。しっかりと反省しなければいけないなと思っています」
速いだけでは勝てない……様々なことを学んだデビューイヤー
こうして2021年のSUPER GTは終了。佐藤蓮にとっては言うまでもなく、後味の悪い形でシーズンを終えることとなってしまったが、全8大会を戦ってきたなかで、レースで勝つために何が大事かを学んでいた様子だった。
「SUPER GTのような“ハコ車”のレースで、他のクラスとの混走というも初めてでしたけど、ドライビングに関してはどんどん自分のものになっていったと思います。でも、失敗も多いシーズンとなりました。」
「やっぱり速く走らせることだけではレースは勝てないことを学びました。チャンピオンを獲るためには、速さだけではなくて強くならないといけない。時にはリスクのコントロールもしていかなければいけないと実感できたシーズンだなと思います」
「今後のことについては、どうなるか分からないですが、しっかりと反省をして、今できることをやっていくしかないなと思っています」
こうして、佐藤蓮のSUPER GTデビューイヤーは終了。目標としていた優勝・チャンピオンを獲得できず、悔しい形でのシーズンを終えることになってしまった。
12月にスーパーフォーミュラの合同テストに参加していた佐藤蓮は「とにかく目の前のことに集中したい」と言いつつも、なかなか切り替えることができない様子だった。今回の件に関しては、決して許されることではないかもしれないが、この経験を糧に次に進んでいくしかない……。そう言い聞かせて、レーシングドライバーとして、さらなる飛躍を自身の胸の中で誓っていた。
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