スポーツ競技で活躍するアスリートたちは、日頃から厳しいトレーニングを行い、試合本番で最高のパフォーマンスを披露している。
その点でモータースポーツ、特にSUPER GTなどの4輪レースを戦うレーシングドライバーたちは、マシンを操って順位を争っているのだが、どうしても普段の街中での運転と一見同じことをやっているように勘違いされるため「そこまでトレーニングをする必要があるのか?」と疑問を持つ人も少なくはない。
しかし、実際にはフルマラソン並みの体力を消耗すると言われており、ドライバーたちも体力や筋力を日頃から鍛えている。今回は8号車 ARTA NSX-GTをドライブする福住仁嶺に、トレーニングで意識していることについて聞いた。
レーシングドライバー福住仁嶺が意識する“鍛えるポイント”
「僕の意見としては“心拍”、“体幹”、“首”がメインになるのかなと思います。体幹はどのスポーツでも大事になるかと思いますが、特に4輪のレースをしている時は丸まって座るような姿勢になりますし、シートベルトでキツく固定されるので、思うように身体を動かすことができません。その中で自分の体重のおよそ3倍の重力に耐えながら走らないといけないので、ちゃんと体幹を鍛えておかないと、力が入らなかったり、すぐに疲れる要素となってしまいます」
「特に今のSUPER GTもスーパーフォーミュラも、スピードがめちゃくちゃ速いんですよね。普段、一般道で乗用車に乗っている時は交通ルールを守って、信号をちゃんと見て、スピードも出さないようにしていると思います。サーキットではタイムや順位を競い合っているので、スピードを出して集中する状態がずっと続きます」
わかりやすく例えると、ジェットコースターで感じるようなG(重力)を受けながら、マシンを正確にコントロールしているレーシングドライバーたち。しかも、それを約1時間にわたって続け、状況に応じて様々な判断をしている。そのため体力面だけでなく判断力の要となる“目”を鍛える必要もあるのだ。
「もちろん走っていて体力面で大変というか、身体にかかる負担も大きいんですが、それに加えて周りを見るために、動体視力もめちゃくちゃ重要になりますね」
「僕の場合は、この前の第2戦富士で黄旗無視のペナルティがありましたけど、あれに関しては不運だったとはいえ、もっと周りが見えていれば防げたかもしれないことです。そう考えると、目の集中力を高めるトレーニングはしっかりとやらないといけないなと思っています。できる時はやっています。」
「特にSUPER GTはGT500・GT300との混走があるので、常に周りを意識して神経を研ぎ澄ませています。常に前は見ているけど、それと同時に車内のディスプレイもチェックして、トラブルにつながる異変が起きていないかを気にしながら走っています。あとは戦略も『今はこうした方がいいんじゃないか』とか、ドライバー自身も考えているので、レース中は意外とやらなきゃいけないことが多い感じですね」
「その全部に意識を向けて、すごく神経を使いながら走っていますし、後ろから追いかけられたりしたら、そのプレッシャーの中で心拍が上がっている状態でも、ミスのないように走らなければいけません。その全てをこなさなければいけないので、大変だなと感じることはありますね」
福住仁嶺 着用商品
レースでの状況を考慮し、様々なトレーニングを実施
こういった部分を考慮して、福住仁嶺は様々なトレーニングメニューをこなしている。取材した日は、今の体調などを椿野修平トレーナーに報告し、その時に応じてメニューを考案。基本的には体幹を整えるところから始まり、次に視点を瞬時に切り替えるトレーニングも行っていた。
また、他のスポーツ選手と大きく異なるのが、レーシングドライバーのほぼ全員が“首”を鍛えるトレーニングをしていることだ。前述の通り、レース中には大きなGがかかるため、それに耐えるだけの首の筋力もつけなければならない。ここの体力が追いついていないと、レース中の集中力低下につながってしまうこともあるからだ。
「コーナーを曲がっている最中の横Gばかりを連想すると思うんですけど、ブレーキング時の縦Gも結構すごいです。だから、首を鍛えるということは、かなり重要な項目になります」
さらにウエイトトレーニングや最後の追い込みで心拍を鍛えるトレーニングなど、この日も約1時間をかけて、福住仁嶺は10種類近いトレーニング項目をこなしていた。
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これを多い時で週に4回こなし、シーズン中の忙しい時でもコンディション調整を欠かさずに実施。こうした地道な努力を積み重ね、福住仁嶺はレースの舞台で最高のパフォーマンスを発揮しているのだ。
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