ツインリンクもてぎで行われた2021 SUPER GT第7戦。最終ラップで逆転を果たし、前回のオートポリス大会に続いて2連勝を果たした8号車ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)は、年間チャンピオンがかかる富士スピードウェイでの最終戦に向け、確信に似た手応えを掴んでいた。
予選日から高いパフォーマンスをみせる
2週間前のオートポリス大会では土曜日の公式練習で苦戦してしまったが、今回は走り出しから上位に食い込み、残り10分の専有走行では福住仁嶺が1分36秒715を記録。2番手以下に0.5秒近い差をつける速さを、予選前から見せつけた。
「今回は持ち込みのセットアップが、すごくレベルの高いところにいてくれたので、大きな変更がなくても、ある程度戦えるだろうなという感触がありました。そこから、大きくパフォーマンスを伸ばすことはできなかったですが、僕たちが今持っているポテンシャルを引き出せた方ではないかなと思っています」(野尻智紀)
好調な滑り出しに、チームの雰囲気も一層明るくなっていく。着実に“良い流れ”が作れている中で臨んだ公式予選は、野尻智紀が3番手でQ1突破を果たすと、続くQ2で福住仁嶺がミスのないアタックを披露。感触としてはポールポジションが獲れてもおかしくないものだった。
しかし、ヨコハマタイヤを履くライバルに逆転され、結果は3位。マシンは絶好調だっただけに、ポールポジションを獲得できなかった福住仁嶺は相当悔しがっていた。
「流れとしては悪くなかったのかなと思います。予選では野尻選手がQ2につないでくれて、色々なフィードバックや走り方のアドバイスをもらいました。そうした細かいところをアジャストをしたおかげでタイムを上げることができました。自分としては走っている時の感触は悪くなかったので、ポールポジションを獲ることができなかったというのは……悔しいです」(福住仁嶺)
それでも、チームの雰囲気は、今までような“危機感”ではなく、“期待感”に似た雰囲気が流れていた。確実に、流れは良い方向へと変わりつつあった。
「とにかく勝ちたかった!」野尻智紀の気迫の走りが、劇的な展開を生む
日曜日の決勝レース。スタート担当は今回も福住仁嶺だ。予選での負けを取り返すべく、1周目から果敢に攻めていったのだが、逆に隙を突かれてしまい、12号車GT-Rの先行を許してしまう。
なんとか逆転を試みるも、順位は変わらず。23周目にピットインし、野尻智紀に交代したが、福住仁嶺は悔しい気持ちに支配されていた。
「スタートで12号車に抜かれていなければ……というのが、すごく大きかったレースだと思います。そこで僕自身がもっとちゃんとブロックできていれば、後半の野尻選手のパートは、もっと楽になっていたかもしれません」(福住仁嶺)
その予感は見事的中する。後半担当の野尻智紀は12号車の背後に接近するも、なかなか仕掛けることができなかった。抜きにくいコースの特徴もあり、GT300との混走を利用しようとするも、タイミングに恵まれない。
「最終コーナーで(12号車がGT300クラスの車両に)引っかかってくれると1コーナーで抜けそうだなという感じはありました。その中で途中に一度チャンスがありましたけど、それを活かせませんでした。『あの時インに飛び込んでおけばよかったな……』と、ちょっと勇気が出なかったことに後悔していました」(野尻智紀)
残り周回がどんどん減っていくなか、打てる手も限られ始めていた野尻智紀。だが、“絶対に追い抜く”という気持ちだけは、ゴールが近づくにつれて強くなっていた。
「12号車のピット時間が明らかに短いのは直感的に分かりました。おそらく給油が短いことに繋がってくるので、向こうは燃費的に結構厳しくなるのじゃないかなと思い……プッシュしていればなにか起こるという可能性があるなと、とにかく攻め続けました」
「福住選手個人としては、3週連続優勝がかかっていましたし、スタートで少し失ってしまったものを、チームメイトとして何としても取り返したいという思いでいました。『何としても前に出たい!』そう思って走っていました」(野尻智紀)
突破口を見出すことはできなかったが、最後の最後まで“攻めの姿勢”を緩めなかった野尻智紀。その効果があったのか、最終ラップに入ったところで12号車にガス欠症状が発生し、8号車は逆転でトップの座をつかんだ。
「僕たちも同じようなことにならないように、燃料は大丈夫だと言われていましたけど、最後のラップは気を抜かずに走りました」と、気を引き締めながら最終コーナーを立ち上がった野尻智紀。チームの頑張りを、最後はエースドライバーが形にし、2連勝を飾った。
それを迎えたARTAのピットは、前回とはまた違った嬉しさに満ち溢れていた。まさに“自信”が“確信”へと変わった瞬間だった。
悲願達成のために、忘れてはいけない初心
今シーズンは様々な苦労を経験してきた8号車メンバーだが、最終戦を前に、これ以上ないほどの勢いをつけることができた。もちろん、この流れを利用して、最終戦は一気に攻め込むだけなのだが、野尻智紀と福住仁嶺は、“こういう時だからこそ”初心に戻ろうと意識している様子だった。
「流れを自分たちで作れるようになってきたのかなという気はします。そう言ったところはレースにおいては大事な要素です。そこが少しずつできるようになってきました。ただ、そこに過信をしてもいけない。しっかりと自分たちで現状を分析をして、また良い流れにしていきたいです」(野尻智紀)
「今回は、周りの人たちに助けてもらった優勝だと思うので、もうみなさんに感謝しています。このレースを通して、僕の中で課題というか改善しなければいけないことが見つかりました。それも自分の実力だと認めて、最終戦はもっと満足できるレースがしたいです」(福住仁嶺)
2連勝を果たしても“まだ課題はある”と感じている様子の2人。チャンピオン獲得のために、もう一度自身たちを突き詰め、高めていく時間が……すでに始まっている。
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