8号車ARTA NSX-GTの野尻智紀と福住仁嶺がSUPER GT今季初勝利を飾ったのは、ゴールデンウィークの第2戦富士。途中終了で混乱のレースとなったため、次こそは「きちんとした形で」「満足のできる」優勝がしたい……二人がそう誓ってから季節は巡り、夏が過ぎ、秋を迎えた。
9月17日、18日に行われた第6戦の舞台はスポーツランドSUGO。ARTAにとっては、昨年の悔しい思いを晴らす絶好の舞台でもあった。昨年のSUGO戦で8号車はポールポジションからスタートしたものの、ピット作業違反で痛恨のドライブスルーペナルティを受けると、コミュニケーションミスもあって複数回ピットレーンを走ることとなってしまい、結果は10位に終わった。今回8号車はライバルに対してもサクセスウエイトが比較的軽く、HRC(ホンダ・レーシング)も今回からスペック2のエンジンを投入。リベンジに向けての材料は揃っていたのだが——。
走行初日の17日午前に行われた公式練習ではまず野尻がステアリングを握ったが、タイムシートの上位に顔を出すことができなかった。持ち込んだタイヤの作動温度レンジも週末のコンディションに完全にフィットしていた訳ではなかったようだが、野尻はそれ以上に一筋縄ではいかないマシンの挙動に頭を悩ませていた。
「コーナーエントリーがオーバーステアで、クリッピングポイント付近がアンダーステアでした。クルマとしてはチグハグでまとまりがないという状況だと感じられました」
その後福住にドライバーチェンジし、GT500クラスの専有走行では6番手タイムをマークした。ただ福住としても、野尻と同様に良いフィーリングを得られていた訳ではなかったようで、「今考えると、予選に向けて大きなトライをするべきだったのかなと思います」と振り返る。
午後の予選では福住がQ1を担当したが、Q2進出圏内である8番手のタイムに0.078秒届かず9番手。Q1敗退に終わった。少しでも上の順位まで追い上げることを目指した決勝レースだったが、突然の雨がチームを翻弄した。
84周の決勝レースは開始前に軽く小雨が降ったものの、ドライコンディションでスタートを迎えた。しかし13周目頃から再び雨が落ち始め、一気に路面を濡らしていく。15周終了時にはGT500の多くの車両がウエットタイヤに交換するためピットに向かったが、その中には8号車の姿もあった。
しかし、8号車は作業に手間取り大きくタイムをロス。クラス最後尾に落ちてしまった。こういったシチュエーションでのピットストップで再給油をするのか、しないのか……そういった認識にチーム内で食い違いがあり、それがピットボックスでの混乱を呼んだ。8号車を担当する伊与木エンジニアも「もっとコミュニケーションを取って戦略の統一をしなければいけませんでした。そこが反省点です」と語る。
「正直言葉が見つからないというか……」と落胆する福住。“強いチーム”は混乱やイレギュラーが起きた時にこそライバルとの差を見せられるとして、「良くなってきた部分も多いかなと思っていましたが、まだまだ厳しい状況だなと思いました」と述べた。
これに関しては野尻も、チームとしての意識をより一層高めないといけないと警鐘を鳴らす。
「過去を振り返っても似たようなミスが何度かあるので、その辺りを改善しないとその先はないと感じています。やれているチームがほとんどだと思いますが、この先何が起きるのかという想定が足りていないのだと思います」
ウエットタイヤに交換した福住だったが、交換直後は雨量が少ない中での走行を強いられたこともあり、雨量がさらに増えた頃にはフロントタイヤの摩耗がかなり進んでしまっていた。混乱するレースにあって福住は、ピットアウト直後に今自分の置かれている状況が把握できないままプッシュしていたといい、そういった点でもチームからもっと多くのインフォメーションが欲しいとの思いがあったようだ。
8号車は31周目 にルーティンのピットストップを行い、野尻に交代して新しいウエットタイヤに交換。その後路面が乾いたレース終盤には3度目のピットストップを敢行してドライタイヤに履き替えたが、全チームが同じ動きをとったため展開を大きく変えるには至らず、13位フィニッシュとなった。
今シーズンは、あと残すところ2戦。福住と野尻は現在トップと33ポイント差のランキング10番手と、タイトル争いにおいてはまさに“崖っぷち”の状態となっている。最終戦である第8戦もてぎまで逆転タイトルの可能性を残すためには、次戦オートポリスで最低でも表彰台を獲得することが絶対条件となってくる。
オートポリスは8号車が昨年勝利を収めているコースだが、彼らは決して楽観はしていない。昨年と違い、今季のオートポリス戦は全車ハーフウエイト(サクセスウエイトの重量が本来の半分になる)であることや、ライバルメーカーがここまでオールラウンドに性能を発揮していることもその理由だ。
そして野尻は改めて、チームの全員が“厳しさ”を持ってオートポリス戦に臨むことが大切だと強調した。
「オートポリスは昨年優勝しているとは言え、自分たちの中で厳しさを持って戦いに臨まないといけないと思います」
「ドライバーだけでなく、チーム全員が同じような厳しさでレースを戦わないといけないと思います。その中でうまくいけば優勝できると思うので、まずは優勝できる可能性をどうやって上げられるかというところが大切だと思います」
福住もまた、チーム全体として気を引き締めないといけないと語った。
「他メーカーのパフォーマンスが上がってきているので、オートポリス戦も全然甘くないと思いますが、それよりも自分たちがまずちゃんとレースをしないといけません」
「ここ数戦はミスなどが目立ってしまっていると思うので、チームをしっかり引き締めて、僕自身も言える部分は言っていって、なおかつ良い走りをしないと結果には繋がらないと思います」
「色々考え過ぎても焦りに繋がるかもしれませんが、目の前の問題点には焦らずに取り組んでしかないと思います。全員が自分たちの仕事を考えながらやれば結果はついてくると思います」
レースウィーク後に実施した野尻と福住のインタビューからは、二人の持つ“危機感”がひしひしと感じられた。まだシーズンは終わっていない。残る2戦の主役となるために、みんなでできることはあるはずだ。
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