NEVER BE SATISFIED「絶対に満足しない」
過密スケジュールの2020年スーパーGT選手権は第5戦で再び富士スピードウェイへと戻って来た。開幕直後の富士で不本意なレースを強いられたARTAにとっては、絶好のリベンジのチャンスだ。
予選で速さを見せながらも決勝でその速さが維持できない。GT500クラスを戦う8号車ARTA NSX-GTには、その苦しみをしっかりと分析し対策を施して富士へと挑んできた。
予選では野尻智紀がQ1を2番手タイムでクリアし、福住仁嶺がQ2のアタックを担当。渾身のアタックで自身初となるポールポジションを掴み取った。
ディングル「フォーメーションラップスタートまであと1分です。戦略をもう一度確認すると、できれば引っ張りたい。ターゲットは35〜42周。セーフティカーウインドウは22周目から」 スタートドライバーとしてステアリングを握る福住に、レースエンジニアのライアン・ディングルが話しかける。
スタート直後にサイドバイサイドのバトルになり、なんとかターン1〜2ではトップを死守したものの、2番手に落ちた直後にセーフティカー導入となってしまった。
ディングル「SC、SC。1コーナー出口から2コーナーまでデブリがあります、左側を走ってください。後ろは23号車、その後ろは12号車」
福住「了解」
レースは4周目に再開となり、一度は広がったトップとの差を福住は再び縮めていく。そして13周目のターン1で抜き去って首位を奪い返す。
ディングル「グッジョブ! ポジション1、ポジション1」 ここからプッシュをして後続を引き離しにかかるが、リアタイヤのグリップが低下して福住はマシンコントロールに苦労する。
ディングル「仁嶺、これからクリーンエアなのでプッシュ、プッシュ」
福住「結構アンダーオーバーが酷いよ。すごく乗りづらい」
ディングル「了解、頑張って」
福住「もう後ろが全く無い。これはキツい、本当にキツい」
ディングル「了解。後ろは24号車、仁嶺のペースは31秒前半、24号車は31秒真ん中、その後ろの39号車は32秒台です」
福住はなんとかマシンをコース上に留め、首位を守って走る。
当初は35周以上引っ張ることをターゲットにしていたが、後続にプッシュされる状況を打開するためにディングルは26周目に福住をピットに呼び入れた。
ディングル「仁嶺、あと1周でピットインしましょう。プッシュ、プッシュ!」
仁嶺「次の周ピットインで良いの?」
ディングル「BOX、BOX」
仁嶺「フロントタイヤも結構ヤバいから、そこも気をつけないといけない」
ディングル「了解、伝えます」
野尻はピットアウト直後のタイヤが冷えている状態で3台のマシンに抜かれてしまうが、5位で踏みとどまった。まだトップとのタイム差は小さく、勝負はこれからだ。無線交信を最小限に抑え、ドライビングに集中したいタイプの野尻を気遣って、ディングルは基本的に野尻の判断に任せて状況を見守る。
野尻は34周目のターン1で4位に浮上してみせた。
ディングル「野尻、グッジョブ、グッジョブ! 今ポジション4。トップは39号車、2番手37号車、3番手24号車。残り32周でトップから10秒以内。行ける、行けるよ」
翌35周目、立て続けに24号車を抜き3位に浮上する。
ディングル「ポジション3、ポジション3。前の37号車は燃リスダウン。残り30周」
野尻「ポジションとかそういうやつだけ教えて」
ここから野尻は前を追おうとするが、後方からも激しい追い上げに遭う。一度は抜かれて4位に落ちる場面もあったが、再び抜き返して3位を取り返した。
最後は前の14号車に0.9秒差まで迫ったものの抜ききれず。それでも3位でチェッカードフラッグを受けてようやく今季初の表彰台を掴み取った。
ディングル「ポジション3、ポジション3。お疲れ様です! 55号車も300クラスで2位です。次の鈴鹿はまたウェイトハンディが軽いから、勝ちましょう」
今季初表彰台。しかしこの結果にARTAは満足などしていない。欲しいのは勝利だ。
「勝ちに行ったんだけど、勝てなかったね。悔しくて仕方ない。今回からお客さんも入場出来るようになったので、モチベーションもとても上がるし、お客さんの前でレースが出来るのはとても幸せだし、そこで絶対勝ちたいと思ってたんだけどね。本当に悔しいよ」
鈴木亜久里監督のその言葉に全てが表われていた。
足りなかったものを究明し、身に着け、次の鈴鹿は絶対に勝つ。表彰台に立ったからこそ、その思いはよりいっそう強くなった。