GAME FOR THE TITLE「王座への勝負権」
GT300クラスを戦う55号車ARTA NSX GT3は、まだ優勝こそないもののウェイトハンディは100kgに達し、鈴鹿では苦戦が予想された。
しかし100kgを積んでいるとは思えないほどマシンバランスは良好で、高木真一が予選Q1を担当して5番手タイムでクリアし、大湯都史樹が7番手でQ2を終えた。
決勝は高木がスタートドライバーを務めるが、フォーメーションラップからタイヤが温まらず1周目で一気に14位までポジションを落としてしまった。
高木「いやぁ、全っ然温まらなかった」
岡島「了解、ここから挽回しましょう」
高木「結構重たいのはツラいねぇ」
土屋「真一、周りがタレてくるまで我慢して!」
高木「重たいとだいぶ違うね、これは。すっごいオーバーステアにどんどんなっていってるね。リア荷重に負けている感じ」
岡島「了解、頑張りましょう」
レースエンジニアの岡島慎太郎とエグゼクティブアドバイザーの土屋圭市が高木を勇気づけるように無線で交信する。
タイヤに熱が入ればペースは安定するが、やはり決勝では100kgのウェイトハンディがフィーリングに悪影響を及ぼす。
高木「全域でオーバー。入口も出口もトラクションを掛けるとオーバーになる」
土屋「真一、頑張ってよ! 前を走ってるクルマは3秒台4秒台に落ちてきてる。真一は2秒台だから頑張って」
しかしマシンの症状は徐々に悪化し、高木はペースを上げられない。このままでは前を追うどころか後続車両を抑え切ることすら難しい。
岡島「これ以上ペース上げるのは難しい?」
高木「これがフリーエアでのペース。多分ランボにやられるね」
岡島「じゃあこの周ピットインしよう」
岡島は19周目に高木をピットに呼び入れ、ARTAのクルーはタイヤ交換と給油、そして大湯へとドライバーチェンジをして再びマシンをコースへと送り出した。この時点では19位だが、まだピットストップを終えていないマシンが12台もいる。
岡島「SC、SC。前12台はまだピットインしてないから、まだまだチャンスあるからね」
大湯「大湯、やりますよ」
土屋「運は向いてきてるからね」
30周目を迎えて全車がピットストップを終えると、大湯は7位まで浮上し4位争いの集団の中にいた。
しかし100kgのウェイトを積んだARTA NSX GT3はストレートが速いマシンを抜くことができない。
岡島「ライバルがピットインしたからこの周からプッシュだよ。前は5号車に詰まって混戦になっているから、落ち着いて抜こう。大湯の方が前の96号車よりもペース良いからね。ストレートは向こうの方が3km/hも速いから立ち上がりを工夫しないと抜けないよ」
大湯「ストレートが速すぎて抜けないですね」
岡島「シケインの立ち上がりで合わせて、最終コーナーをイン側で行けば抜けるって高木さんが言ってる」
大湯はなんとかタイヤをいたわりながらチャンスが訪れるのを待ったものの、周りの誰よりも重いウェイトはタイヤへの負荷も誰よりも高い。
40周目を迎える頃にはリアのグリップが低下し、マシンバランスはかなりオーバーステアで不安定になってきた。
大湯「もうリアがないですね、リアがなくなるのが速い」
岡島「了解、この順位を死守していこう。後ろとのギャップは9.6秒。後ろから速いの(7号車)が来てるから2分3秒フラットはキープしたい」
なんとかペースを維持し、じわじわと迫ってくる後方とのギャップを見ながら走行を続ける。
岡島「後ろとのギャップ5.4秒、ペースを崩さないで」
大湯「はい、頑張ります」
6番手のマシンについていくことはできなかったが、7位を守り切ってフィニッシュ。
決して望ましい結果ではないが、上位は30kg程度のウェイトしか積んでいないクルマばかりであったことを考えれば、充分に称賛されるべき結果だった。
これでチームランキングは4位となり、次戦はウェイトを半分下ろして57kgで挑む。
「ウェイト100kgの中ではトップでチェッカーを受けられたし、ランキング上位陣はあまりポイントを獲れなかったから、チャンピオン争いに残ることができたけど、もてぎはライバルが手強いし、富士は得意だけど油断の出来ないレースが続くね。集中して残り2戦を戦っていきたいね」
土屋エグゼクティブアドバイザーが語るように、タイトル争いはいよいよ佳境に入る。ラスト2戦の決戦に向け、充分にその実力を証明してみせた鈴鹿戦だった。