やはりテッパンは「GT-R」「スープラ」「NSX」
1994年のJGTC(全日本GT選手権)を起点とするSUPER GTは、その長い歴史において幾度となく車両レギュレーションが変わり、また出場車両も時代ごとに変化していった。SUPER GTに長年参戦してきたARTAもさまざまなクルマで多種多様なライバルと戦ってきたが、鈴木亜久里総監督、土屋圭市エグゼクティブ・アドバイザーの両名は、どんなクルマが印象に残っているのだろうか?
土屋圭市:個人的にはさ、GTを象徴するクルマってやっぱりニッサンGT-Rだと思うんだよね。中学生のときからテレビでスカイラインGT-Rが活躍する姿を見てきたのもあるけど、自分のなかではいまでもニッサン、イコールGT-R。GT-Rが絡むとレースは面白くなったし。GT-Rという名前のクルマがいまもレースに出ているってこともすごい。それだけに「GT-Rがレースで遅い」っていうのは自分としてはちょっと許せないんだよな。
鈴木亜久里:トヨタに関しては(脇阪)寿一が乗っていた時代の80スープラかな。やっぱりあのときの印象が強いし、いまでも一番人気があるんじゃないの?
土屋圭市:そうだね。トヨタは80スープラだし、ホンダはやっぱりNSXだよね。JGTCの時代から出ていたわけだし、とくに2007年に伊藤大輔がシリーズチャンピンになった年が強く印象に残っている。あの年は本当に速かった。
鈴木亜久里:日本のGTレースの歴史のなかで、鈴鹿で初めて1分50秒を切って、予選で2番手にコンマ8秒くらいつけたからね。あのときは最高だったなぁ。それにしても、その前のターボ時代はつらかった。とにかく結果が全然出なかったし、サーキットに行きたくなかったもん、オレ(笑)。
土屋圭市:あのときのターボエンジンはパワーバンドが7800回転から9000回転までしかなくて、そこを外すとダメだったからね。あれはドライバーが可愛そうだった。その点、オレが乗っていたその前の時代のNAエンジンは良かった。エンジンは9000回転まで回ったし、運動性能も良くて、乗っていて本当に面白かった。パワー的にはトヨタとニッサンに負けていたけど、コーナーではとにかく速かった。少しピーキーだったけど、そこがまた面白かったんだよな。当時はダウンフォースでクルマがどんどん速くなっていた時代。普通はレースのあと筋肉痛になるけれど、オレがやめた2003年のNSXは筋肉ではなく骨に疲労がきたからね。
鈴木亜久里:それってクルマが速くなったのではなくて、圭ちゃんが歳をとったんじゃなかったの(笑)。あの時47歳だったっけ? でも、いまのクルマってあのときよりも10秒くらい速いんだよね。それを、いまの子たちは普通に乗っちゃう。
土屋圭市:いまのクルマってエアコンがついているし、シフトもパドルだし、めっちゃ楽なんじゃないの? オレの時代とかガチャガチャとシフトしていたもん。
鈴木亜久里:それでもさ、やっぱり10秒も速いって身体はつらいと思うよ。いまのGT500の鈴鹿のタイムって、オレが乗っていたときのF1と同じくらいのタイムだもん。もちろん、当時といまではコースも改修されてはいるから単純比較はできないんだけど、でも、それを差し引いてもGTはどんどん速くなっている。自分が最初に乗ったラルースF1の予選タイム、1分46秒だったし。
土屋圭市:たしかに、それはいまのGT500のタイムだね。
鈴木亜久里:直線はやっぱりF1のほうが速かったわけだから、コーナーではGT500のほうが速いってことだよ。F1の2倍くらいある、1200kgくらいの重いクルマが、F1と同じようなスピードで走っちゃうんだから。
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ミッドシップの味付けを踏襲しているFRマシン
土屋圭市:話が戻るけど、2007年のNSXは本当に速くて強かった。鈴鹿に5台出ていてホンダ陣営すべてが速いなかで、ウチのARTAだけ1分49秒台。あれはドライバーの力もあったと思う。あのプライドが高いラルフ(ファーマン)が「鈴鹿の予選はダイスケに託す」というくらい、伊藤大輔が乗れていて速かった。
鈴木亜久里:あの年はふたりともミスが少なかったし、すごく強かった。クルマも相当良かった。でも、あの年、オレはほとんどGTの現場に来ていなかたんだよね。F1のチームをやっていたから。オレがいない方が調子いいじゃないって(笑)。
土屋圭市:こっちはたまったもんじゃなかったけどな。無線は片方でGT300、片方でGT500の音声を聞くわけだから、テンパってくるわけよ。『後ろから500が来ているぞ』って無線で伝えると『あ、僕が500のほうです』って(笑)。『亜久里、ふざけんじゃねーぞ、バイトなんかしてんじゃねーぞ!』って感じだった。
鈴木亜久里:バイトじゃないよ(笑)。あの頃はF1が本職だったし。
土屋圭市:HSV-010もクルマとしては良かった。ちゃんと走ったし。あのときは「何もミッドシップにこだわらなくてもFRでもいいじゃん」って思ったな。
鈴木亜久里:いまのNSXもFRだけど、もし、それを聞かされずに乗ったら、ドライバーはミッドシップだと思うかもしれない。実際、フィーリングはミッドシップとあまり変わらないみたいだよ。GT-Rにしたって市販車はV6の4WDなのに、GTでは直列4気筒の後輪駆動なわけだし。そのあたりは、お客さんもあまり気にしていないんじゃないのかな? みんな同じルールで平等に戦うほうが気持ちいいじゃない。オレたちもいまのほうがスッキリとした気持ちでレースを戦えているからね。
鈴木亜久里、土屋圭市が“個人的に”乗ってみたいGT300車両
土屋圭市:じゃあ、GT300に関してはどう?
鈴木亜久里:ARTAとしては、やっぱりガライヤが思い出深いね。ちゃんとしたレーシングカーだったし、よく勝ったから。当初、エンジンはニッサン製でかなり苦労したけれど、途中から尾川さん(尾川自動車)のところでエンジンを面倒みてもらうようになってからはすごく調子が良くなった。あと、最近ではBMWのM6もいいクルマだった。とにかく富士だけは強くて勝てたし。
土屋圭市:富士のM6は本当に速かったね。富士で2連勝したし『富士だけ番長』だった(笑)。ボディサイズは隣のピットのNSX GT500が隠れちゃうくらいデカかったけど、トラクションコントロールとかABSとか、自分が合わせたいところにちゃんと合わせられたし、とにかくよくできていたね。M6に比べると、いまのNSX GT300はドライバーがクルマに合わせて走っている感じ。
鈴木亜久里:ただ、M6はBoPの締めつけが厳しかった。富士では優勝できるくらい速いのに、鈴鹿では全部パーフェクトで走っても予選18位とかQ1 を通らないレベルだったもん。
土屋圭市:いまのGT300のなかで自分が「乗ってみたい!」と思うのは、個人的にはSUBARUのBRZ。あれはエンジンも市販車ベースだし、自分のところのエンジンを使っているのがいいよね。本当の意味でのGTって感じがする。
鈴木亜久里:僕はやっぱりNSXとかポルシェ911が気になる。ただ、NSXは乗ろうと思えばいつでも乗れると思うから、AMG GT3に乗ってみたい。既製品のレーシングカーだし、生産ラインで作っているのにあれだけのパフォーマンスを出せるって凄いと思うんだ。トラクションコントロールとかの電子制御も、とても優秀だって聞くし。
土屋圭市:AMGは市販車でもそのあたりの電子制御のセッティングが本当にうまいし、良くできている。AMGなんかが象徴的だと思うけど、GTは車種バリエーションが豊富なだけでなく、各自動車メーカーの技術とか、考え方がクルマに凝縮されているのがいいよね。
鈴木亜久里:たしかに。いまのGTカーに対しては鈴鹿を1分40秒台で走らなくても、いいバトルさえできれば、2分台でいいんじゃないのかなって思うときもある。GT500もGT300も、圧倒的なスピードが魅力でもあるけれど、いまのクルマはちょっと速過ぎるかもしれないね。
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