20年以上第一線で活躍し続ける、ARTA 55号車ドライバーの高木真一。チームと監督から厚い信頼を得つつ、若手ドライバーから慕われる大ベテランだ。今回はレースの合間にガレージにお邪魔し、ファンからも身内からも愛されるその魅力について探った。
チームに欠かせない速さと指導力
1998年からスーパーGTの前身「全日本GT選手権」に出場し、2001年からARTA GT300のドライバーとして参戦し続けている高木選手。まさに屋台骨として20年以上チームを支え続け、ARTAにとってなくてはならない存在だ。
「高木選手は東大に入れる力を持った子たちを、東大合格に導く塾の先生として教えている感じ」
と、鈴木亜久里総監督や土屋圭市エグゼプティブアドバイザーが語るように、2019年から新人の若手ドライバーとコンビを組むようになった高木選手。常に結果が求められるレースにおいて、息子ほど歳の離れたドライバーとコンビを組む難しさは無いのだろうか。
「やっぱりレースの世界はスポーツで縦社会でしょ。だから自分の頃は先輩がめちゃくちゃ怖くて(笑)。でも今はそういう時代じゃないから、必要なことを見極めつつどうやって伝えていくか常に考えています」
今でもトップ争いを繰り広げる速さとこれまでの経験に加え、歳の離れた若手ドライバーを引っ張る指導力は、ARTAにとって大きな“力”となっている。
社会人の先輩として伝えるべきこと
高木選手は2019年に福住仁嶺選手、2020年は大湯都史樹選手、そして2021年は佐藤蓮選手と、若いドライバーとコンビを組んでいる。そこで最近の若い選手について、社会人の先輩としてどう感じているのか聞いてみた。
「今のドライバーは、レーシングカートから始まって、スカラシップやスクールで鍛えられ、そこで生き残ってきた子たちなのでやっぱり速いですよ。だけど、レースは一般社会から見れば異色な世界なので、一人の大人、社会人として必要なことを学ぶことも大切だと思います」
「特に佐藤選手は20歳とこれまでで一番若いので、何が良くて何がダメなのかの判断を、親と同じ感覚で伝えるように心がけていますね。あと、チームやファン、スポンサーなど、今自分が乗れているのは誰のおかげなのかということも、佐藤選手に限らず、これまで共通して伝えています」
プロのレーシングドライバーという職業は、希望すれば誰でもなれるというわけではない。だからこそ、近年の多くのドライバーは子供の頃からレーシングカートに乗り、レース中心の生活を送ることでステップアップしてきている。
しかし、それは同時に、一般社会で普通に学べることを経験できない可能性があるのだ。いくらクルマを速く走らせることができても、プロになれば一人の社会人として生きていかねばならない。
高木選手は、これまでコンビを組んできた若手ドライバーそれぞれの個性やそれまでの経験を見極め、レーシングドライバーとして、また、一人の社会人として引っ張ってきているのだ。
勝つために必要なことは気持ちを一つにするコミュニケーション
ときに親のように、はたまた会社の先輩や上司のように、若手ドライバーを一人前の社会人に育てている高木選手。では、そんな若いドライバーと共に勝利を目指すには、どんなことをアドバイスしているのだろうか。
「個人としてもチームとしてもレースに勝つために伝えているのは、主にコミュニケーションの取り方や主張の仕方ですね。クルマを速くするためには、メカニックやエンジニアが自分のためにやる気を持ってもらうかも大事ですからね(笑)」
「あと、佐藤選手は箱車のレースが今シーズン初めてなので、僕がメカニックやエンジニアと話している内容を聞き、クルマのセットアップを学んでもらえればと思います。また、佐藤選手の気持ちや好みをくみ取って、気持ちよく走れる状態に近づけるようにしていますよ」
「彼らはもっと上のカテゴリーを目指さなきゃいけないから、若手がなるべくアピールできるように結果を出すことも常に心がけてます」
相方が乗りやすいようにクルマをセットアップするのも相当な技術と経験が必要だが、その上で自身もタイムを出せるというのは、大ベテランならではの離れワザと言えるだろう。
若いドライバーから学ぶこともある
チームと若手ドライバーの両方を引っ張る高木選手だが、逆に若手ドライバーから学ぶこともあるという。
「スクールやスカラシップで上がってきたっていうこともそうですが、若いドライバーはシミュレーターをやっているので、実車でもそういう走らせ方があったのか!と思うこともあります」
「彼らはカートの時代から一緒に頑張ってきた仲間という意識があるみたいで、シミュレーターでもレースをしたりしてますよ。本当に運転が好きだし、仲が良いんだなぁって思う(笑)」
単なるゲームではなく、トレーニングとしてレーシングシミュレーターを取り入れているレーシングドライバーも少なくない。高木選手も自身が監督と代表を務めるレーシングチーム「BionicJack Racing」のガレージにシミュレーターを置き、練習することがあるという。
「いつもではありませんが、たまにはシミュレーターに乗ることもあります。僕の場合はタイムを出す練習というよりは、レースとレースの間が離れているときとかオフシーズンとか、レースの感覚を養うために使っています」
レースとクルマにいつでも向き合う
高木選手のオフの記事でもお伝えしたように、高木選手は、海沿いのランニングやボディメンテナンスなど、休日でもレースのために時間を使っていた。また、TREK FANをはじめとした走行会や、自動車メーカー主催のドライビングスクールなどにも講師として参加。運転技術とクルマを操る楽しさを、多くの一般ドライバーに伝えている。
また、自身がレーシングドライバーとしてステアリングを握るほか、レーシングチーム「BionicJack Racing」の監督と代表を務める高木選手。レース車両のメンテナンスに加え、F4やポルシェ カレラカップジャパン(PCCJ)にも参戦し、若手選手の育成にも力を注ぐ。
「レーシングドライバーはファンやスポンサーのために走る」
高木選手が語っていたその言葉通り、スーパーGT以外の場面でも行動として実践されていることが良く分かる。
人柄の良さに加えクルマとレースに向き合うその姿勢があるからこそ、若手から慕われ監督やチームからも頼りにされ、そして多くのファンに愛される理由なのだろう。
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